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コンセプトノート

529. 変化は一口サイズから(1)

小さな目標を立てるのは難しい

多くのスキルトレーニングには、学んだスキルを身につけるための行動計画を立てる時間が組み込まれています。今年実施したEQトレーニングでも、お決まりのように行動計画を立てました。

それから3ヶ月。行動計画を振り返るフォローアップのセッションを、先日終えました。どのような計画を立てたか、実行できたか、変化を実感できるようなエピソードはあるか。各自の3ヶ月の振り返りを共有していきます。

その反省を踏まえて、もう一度行動計画を立ててみます。多くの改善を欲張りすぎて「計画倒れ」に終わってしまった人が多いことを鑑み、今回は確実に習慣づけられる小さな行動の計画を立ててもらうことにしました。

まず、「歯を1本だけ磨く」話などを紹介しつつ、小さく始めることの有効性を確認します。そのうえで再度行動計画を考えます。そして1人ずつ皆に向かって発表してもらいました。プランに具体性が足りないと感じたら、講師役のわたしが質問をしながら、他の仲間の助けも借りて、内容を詰めていきます。

この時間は、わたしにとっても学びの深いものでした。「歯を1本だけ磨く」ようないい行動計画を思いつくのは、なかなか難しいのです。事例を2つ挙げましょう。

ケーススタディ1(Aさん)

Aさん(男性)は、自己認識力を高めるために感情の動きを振り返る日記をつける、と発表しました。

堀「いま日記をつけていますか?」
A「いいえ」
堀「お使いの手帳はありますか?」
A「いいえ」(手帳買えよ!の声)
堀「では用意しなきゃ、ですね。どんな日記を買いましょう?」
A「そうですね、紙の日記はちょっと……オンラインのスケジュール帳があるので……」
堀「そこにメモ欄がある?」
A「どうだったかな。調べておきます」(解放されたそう)
堀「せっかくですからもうすこし。仮にメモ欄があったとして、毎日“ふりかえり日記”をつける自分を想像できますか?」
A「……」(できない!の声。本人苦笑)
堀「日記をつけるのは大変ですよね。必ず毎日やっていることに組み込めるといいんですが。業務日誌とかつけていませんか?」
A「いえ、つけてないです……」
堀(全員に)「どなたか、いいアイディアないですか?」
B(やや間があって)「マグネットは?」

オフィスに、名前×所在の表が書かれたホワイトボードがあるそうです。その表中にマグネットを置いて自分の所在を知らせる仕組みがあるとのこと。

堀「いいですね。帰るとき、今日1日を評価してホワイトボードの自分の行に小さく○△×を書き込んでみるのは?」
A「はい、それなら」(安堵の表情)
堀(全員に)「皆さん、Aさんが毎日書き込んでいるかどうかチェックしてあげてくださいね」(頷き)

ケーススタディ2(Cさん)

Cさん(女性)の改善テーマは自主性・決断力。「今度ミーティングで皆がもめるような難しい状況になったときには、自分の意見をはっきり言うようにしようと思います」との発表でした。

堀「どのくらいの頻度でそういう状況になるんですか?」
C「そうですね……月に一回くらいは」
堀「となると、次にそういう状況になったとき思い出せますかね?」
C「……難しいかもしれません」
堀「毎日決めていることに組み込むのがいいと思うんですが、何かありませんか」
C「んー、毎日会議をするような仕事ではないので……」
堀「たとえば、お昼ごはんはお弁当ですか社食ですか」
C「社食です」
堀「もしかして、何を食べるか悩むほう?」
C「ええ、すごく。食べるのが大好きですし、一日の楽しみですし」
堀「では、その決断を3秒でするとか、どうですか」
C「えっ」(絶句)
堀「そんなに大変ですか?」(全員笑)「どんどん決めて行動に移す感じがつかめることなら、何でもいいのですが……」(2ヶ月だけやってみたら?の声)
C「そうですね、では期間限定で……」
堀(全員に)「Cさんと一緒にランチに行く方は、チェックしていてくださいね」(頷き)

変化は一口サイズから

失礼ながら、Aさんが日記をマメに書けそうな人ではないことは、フォローアップ前の3ヶ月間が証明しています。おそらくはご本人もそれを自覚されつつ、具体的なアイディアも思いつかないので「日記」と書いてみた、というところだと思います。
仲間のアイディアを借り、退勤時にホワイトボードに○△×をつけるというシンプルな案になりました。今日は○△×のどれかなと考える時間、その数秒が1日を振り返る時間になります。まずはこれで十分でしょう。

Cさんの行動計画は「自分の意見を言いづらい状況で、意見を言うようにする」というものでした。そう宣言するのは簡単ですが、これは卒業課題にいきなりチャレンジするようなものです。言おうと思って言えるなら、すでに克服できているはずです。
Cさんには、やや唐突にランチ絡みの提案をしました。実は、ランチは行動計画を実践するきっかけの定番です。毎日発生するイベントですし、いつ・誰と・何を食べるかを選択する余地があるので、小さな行動を組み込みやすいのです。

(続く)