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コンセプトノート

287. 直近の失敗(と成功)に振り回されないために

Aという見込み顧客への提案が通らなかった。それどころか厳しい指摘をいくつもいただいて、ショックを受けた。次のB向けの提案に向けて、何を改善すべきなのか。

 われわれは直近の目立ったことがらに影響されやすい傾向(検索容易性ヒューリスティクス)があります。ガツンと怒られた経験などはまさに典型で、上の例でいえばAから受けた指摘のままに直したくなってしまいます。しかしそうしたからといって、Bへの提案が通るわけでもありません。直前の一回の失敗や成功に過剰に適応していると、それに振り回されて、結局はどこにも収斂していきません。かといって何もしなければ、待っているのは緩慢な衰退です。

 ほかならぬ自分にその傾向を認めるのですが、教訓を汲み取り過ぎてしまう、あるいは反省し過ぎてしまう人というのがいるものです。そんな人のために、直近の大きな失敗や成功に振り回されず、落ち着いて考えるためのヒントをまとめておきたくなりました。

普遍と個別を見きわめる

 すべての顧客の判断基準がまったく同じであれば、直前の失敗の反省をすべて取り入れるべきでしょう。しかし、もちろんそうではない。一喜一憂する必要はないということです。
 とはいえどの顧客も人間ですから、そこには普遍的な心理のはたらきはあります。そこに訴えられなかったという失敗であれば、改善を図るに値します。
 つまり、失敗の原因が普遍的なものか顧客個別の事情によるものかを考えることが鍵。

「打率」を考える

 普遍と個別を見きわめるとはいっても、ひとつの事例からでは見きわめられません。少し長いスパンを取って、成功率を測る必要があります。
 このやり方では打率何割、このやり方では打率何割というように考えることで、個別の事情を除いて考えることができます。惜しい失敗も、こっぴどい失敗も、同じ1敗として評価できるようになります。

「デカルトの旅人」のように考える

 打率を測定するためには、やり方をふらふら変えるべきではありません。デカルトは『方法序説』でこんなことを書いています。

森の中で道に迷った旅人は、あちこちふらふらしたりすべきではなく、まして一ヶ所にじっとしているべきではなく、同じ方向に向かってできるだけまっすぐに進み続けて、ちょっとやそっとでは方向を変えたりしないことだ。その最初の方向を決めたのがただの偶然だったとしても。なぜならこうすれば、希望の地点にたどりつくことはないにしても、いずれどこか、森のど真ん中よりはましなところに出るはずだからだ。
デカルト(著)、山形浩生(訳)、『もろもろの学問分野で、正しく理詰めで真理を探究するための方法についての考察