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コンセプトノート

255. キャリア・チェンジは、人間関係のチェンジでもある

キャリア・チェンジは、人間関係のチェンジでもある

『シンクロニシティ』の著者ジョセフ・ジャウォースキーは、長年経営してきた法律事務所を辞めて、まったく新しい挑戦をする決意をします。彼は、アメリカにいる旧来の仕事仲間よりも、直近の3年間一緒に働いたイギリスの同僚の方が、新しい挑戦に理解を示していることに気が付きます。

仕事をする最後の晩に、イギリスの同僚たちがささやかなカクテルパーティーをひらいてくれた。彼らは私がしようとしていることがどういうことなのか、アメリカの同僚たちより受け入れ、理解してくれているようだった。思うに、アメリカの仲間がそうなれなかったのは、さまざまな意味で彼らと私がともに成長したからではないだろうか。彼らにとって気心が知れているのは昔の私であって、新しい私とは親しくなれなかったにちがいなかった。(p115)

ジョセフ・ジャウォースキー 『シンクロニシティ 未来をつくるリーダーシップ』 英治出版 2007年

近しい人間関係はキャリア・チェンジの障害になり得ることを、ハーミニア・イバーラは”Working Identity”(『ハーバード流 キャリアチェンジ術』)で指摘しています。

キャリア・チェンジを実践した人のほとんどは、ごく親しい人から「どうかしている」と言われた経験をもつ。ともに時間をすごした相手は、じゃまをするつもりはなくても、こちらになんらかの期待を根強くもっている。新しい可能性を見つけることは、そうした暗黙の「約束」を破る結果になりかねない。(p163)

ハーミニア・イバーラ 『ハーバード流 キャリアチェンジ術』 翔泳社 2003年

たとえば友人が第三者に自分を紹介してくれるとき、「営業一筋の人です」「とにかくまじめな人です」などと言われて、ラベルを貼られたように感じ、付け足しを言いたくなったことはないでしょうか。

新しい役は、新しい舞台で

友人は自分の一面を、友人の世界観で理解しているに過ぎません。でも友人は、そのように理解した自分を友として認めてくれているわけです。これはお互いさまであって、そういうものだと呑み込むしかないでしょう。

しかし一方で、社会的な存在としての「自分」は、他者からの期待によって規定されざるを得ません。たとえば教師でありたいと思うのは自由ですが、社会的には、生徒役の人たちから認められて初めて教師になります。

近しい人たちは、ふだんは良き相談相手であり、慰めを与えてくれる存在です。しかし新しいキャリア・アイデンティティを築こうとするときには、その近しさが障害になる可能性がある。

もし新たに演じたい役があるならば、試演はいまの舞台(人間関係)ではなく、新しい舞台で披露したほうがよいということです。