勇気とは「見えているリスクを敢えて取る」力
「勇気というスキル(1)」の続きです。
もし勇気がスキルであるならば、意識的に伸ばすことが可能なはずです。これはなかなか面白い着想なので、少し丁寧に考えてみましょう。
まず勇気という言葉の定義をしておかなければなりません。ここでは、「ほんとうのハードワーク」というノートで触れた、「見えているリスクを敢えて取る」力とします。
もう少し詳しく書くと、「勇気をふるう」ということは、
「短期的には心理的・経済的(・肉体的)に不利益を被る可能性(リスク)があると分かっていても、その先にあるチャンスを求めて行動を起こす」ことであるとします。
きちんと考えていくと本が一冊書けてしまいそうな気がしますが、ここでは考えたことを一つだけ紹介します。
リスキーな行為と勇気ある行為は違う
「見えているリスクを敢えて取る」とはいっても、例えば
「破産を覚悟で全財産を投じて宝くじを買う」
のは勇気ある行為とはいえませんよね。単にリスキーなだけです。
そう感じる理由をよく考えてみると、
・自分でコントロールできないものに自分を賭けてしまっている
・ある一回の選択に全てを賭けてしまっている
からだといえるでしょう。
では、
「破産を覚悟で全財産を投じて事業を興す」
はどうでしょう。事業経営は宝くじとは違ってある程度は自分でコントロールできますから、1点目については大きな違いがあります。
問題は2点目です。会社を辞め、貯金をはたいて事業に投資することは、単にリスキーな行為なのでしょうか、それとも勇気ある行為なのでしょうか。
勇気は小出しに
「大事なことの選び方・決め方」は起-動線の一貫したテーマですので、大きな決断をされた方にはいろいろと話をうかがいました。そんな中から抽出できる学びの一つは、
「外から見れば一つの大きな決断であっても、内部では小さな選択の積み重ねである場合が多い」
こと。
先日起業の経緯をうかがったAさんは、最初は「僕の場合は思いつき起業ですから」とおっしゃっていました。しかしよくよく聞いてみれば、
「営業力は付けておかなきゃと思って、営業に志願したこともありますよ」
「いつどうなるか分かりませんからね、これで実はコツコツ貯金してきたんです」
「嫁さんにも、俺はいつか突拍子もないことするかもしれないから覚悟しといてね、なんて言ってましたから(笑)」
などという言葉が出てきます。自分の適性を確かめたり、経済的なリスクを減らしたり、家族の反応を窺ったりするような準備を、半ば無意識に積み重ねられてきたのです。小さな選択を既に済ませていたといってもいいでしょう。
だからこそ、ある事業ネタが転がってきたときにそれを掴めた。外からはリスキーな決断に見えても、本人からすると決断のハードルはそれなりに低くなっていたのです。
行動経済学によると、人間は損をするリスクの方に過敏に反応するそうです。起業や転職のような大きなチャレンジを、「する」か「しない」かの二者択一的な選択と捉えると、行動することによって損をするリスクに目がいってしまい、現状を維持するバイアスが働きます。これが続いてしまうのが、いわゆる「ゆでガエル」現象でしょう。
我々は選択の結果を全てコントロールすることはできません。
結果的に失敗に終わる選択も、必ずあります。
これらを踏まえると、勇気というスキルを高める一つの方法は、
「大きな決断を小さなチャレンジに分解し、試していく」
やり方を磨くことであると言えそうです。
勇気は小出しに、ということですね。