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コンセプトノート

077. 未来をつくる:バックキャスティング

最近読んだ本[1]で、backcastingという言葉を知りました。政策分析や未来予測をする際の手法のひとつです。その言葉を調べつつ考えたことをシェアしたいと思います。

■backcastingは「未来をつくる」方法論
forecasting(未来予測)にはいろいろな手法がありますが、基本的には過去のトレンドを未来に延長しつつ、未来のイベントを織り込んでいきます。台風の進路予想図のようなイメージです。このやり方は、「大きな変化がない系を」「短〜中期で」予測するには適しています。

しかし、長期の予測、あるいは過去から現在への線の先に未来が無い場合には、受動的に予測をしているだけでは済まされません。

例えば「このまま石油燃料に依存し続けていると、20年後には危機的状況になる」と予測されたとしましょう。ご存知の通り、「このまま行くとマズイ」という予測だけではなかなか社会を動かすことはできません。

そこで、まず「石油燃料を使わない20年後の社会」を明確に描き、そこに向けて今後10年で、5年で、1年で、やらなければいけないアクションを定めていく。これがbackcastingです。

この考え方は、1997年にスウェーデンの環境保護省が”Sustainable Sweden 2021″[2]というレポートをまとめる際に使用されたことで知られるようになったようですが、他にも政策分析や企業の競合分析・戦略立案のツールとして使われています。[3] [4]

言うなれば、未来を予測するだけでなく「未来をつくる」方法論、あるいは「非連続な変化を起こす」方法論ということになります。

■個人のあり方においても
これを個人の意志決定に当てはめて考えるとき、2つのポイントがあることに気が付きます。それは、

 非連続な変化を自ら起こすには、すなわち未来をつくるには、
 1. 明確な目的意識
 2. 長期的な視点
 を持たねばならない

ということ。環境問題が1日では解決しないように、何かビッグバンのようなイベントで自分が変身できるわけではありません。

大変身はない代わり、じっくり取り組むことで大きな、後から振り返ると非連続ともいえる成果を挙げられる可能性が高いことも、示唆されています。[5]

では個人にとって「長期的な視点で」「明確に持つ」目的意識とはいったい何なのでしょうか。もちろん解答を提供できる類の問いではありませんが、おそらくは起業とか転職とかではないでしょう。それらは目標であって、目的に近づくためのツールです。目的はもう少し漠然とした、自分の「あり方」のようなものだと考えています。

#起-動線が提供している「自分ナビ」では、目標を「チャレンジ」、目的を「ありたい自分」と表現しています。

【参考】
1. 『環境再生と情報技術』

2. “Sustainable Sweden 2021”
(プレスリリースへのリンク。レポート自体は見つからず)

3. “Backcasting as a Tool in Competitive Analysis'”
(1995年の論文。競合分析のツールとしてのbackcasting。pdfへのリンクです)

4. “Energy backcasting A proposed method of policy analysis”
(今回調べた中では、backcastingについて言及されたもっとも古い論文。1982年。)

5. ここで『ビジョナリー・カンパニー 2』を想起された方も多いかもしれません。この本は、何年間も市場平均以下だったのに、ある年を境に「飛躍」を遂げた企業を抽出し、その成功要因を探っています。ほとんど非連続ともいえる成長を遂げた企業であっても、「その瞬間」を認識していた経営者はほとんどいなかったというくだりが印象に残っています。