発見こそが戦略である。
これは、『アントレプレナーの戦略思考技術―不確実性をビジネスチャンスに変える』という本の最終章のタイトルです。この本自体は新規事業についての本ですが、「不確実性とどう付き合うか」について考察されている点で、個人の生き方を考える上でも参考になります。
本書の中心になっている考え方は、不確実な将来への道筋をプロットし、そこへ踏み込んではじめて直面する現実を見てから軌道修正を行うという、仮説指向型のアプローチである。
(太字は引用者)
仮説指向型のアプローチとして本書が提案しているのがDDP計画法(Discovery-Driven Planning)という方法論です。発見駆動型の計画、あるいは遭遇駆動型の計画といってもいいでしょう。
発見あるいは遭遇といえば、「思いもかけないこと」「予測できないこと」。これをベースにした計画法というのはなんだか矛盾しているようでもありますが、そもそも現実の世界、特に新しいことについては「予測できること」の方が少ないわけです。昨年の実績を基に今年の計画を作るということができないときに、何を足がかりにして前へ進めばいいのか。それはちょっと動いてみて得られた「発見」だということです。
ここで、DDP計画法のステップを簡単に解説しつつ、起-動線との類似を見てみましょう。
- フレームワーク
事業の枠をどう定めるか。通常の計画法が『現在から出発して達成目標までの道筋を描く』のに対して、DDP計画法では『最終的な目標を設定することから始めて、未来から現在へ時間を逆方向に遡って計画を策定する』アプローチを採ります。ツールとして紹介されているのは、例えば、目標とする利益をまず決めてそこから必要な売上や許容されるコストを見積もっていく「逆財務諸表」。
「自分ナビ」作成プログラムでは
「自分の棚卸し」を殆どせずに、まず「チャレンジの仮決めをしてみよう」というアプローチによく似ています。 - ベンチマーキング
指標を決めるということです。たとえ新事業であっても、成功/失敗、成長/停滞をどうやって測定するのかというモノサシを定めないことには計画が立てられません。例えば、上で描いた目標利益を達成する販売が可能な市場であるのかを調査し、(シェアや売上高利益率などの)指標を決定します。
「自分ナビ」作成プログラムでは
ここが企業経営と人生の大きく違うところですが、客観的な指標を求めるよりはあくまで自分自身の納得感を大事にし、「ありたい自分」を判断基準にしています。その判断基準たる「ありたい自分」を明確にするために多くのボリュームを割いています。 - 課題明細の明文化
通常の計画法と同じように、戦略を具体的な日常業務に落とし込んでいきます。
「自分ナビ」作成プログラムでは
全方位チェックシートの作成を通じて、「日常業務」とは言いませんが、大きな「チャレンジ」を9つの視点からみた「ミニ・チャレンジ」に落とし込んでいきます。 - 仮説の検証
ここが”Discovery-Driven”アプローチの最も重要なステップでしょう。上の課題明細(業務計画)はそもそも幾つもの「仮説」の上に立って作成したものです。ですから計画を見直す際には必ず仮説も再検討します。
「自分ナビ」作成プログラムでは
「自分ナビ」作成プログラムもまさに仮説検証型です。1周目はチャレンジも仮決め、「ありたい自分」も仮決めで構いません。1周やってみると、そのチャレンジが「ありたい自分」を満たすのに最適なものなのかが分かります。また「ありたい自分」が変わった場合にはチャレンジとの距離を測り直しつつ、場合によってはチャレンジを変更すればいいのです。 - マイルストーン管理
上の「仮説の検証」を確実に実行するために「どのタイミングでどの仮説を再検証するか」というトリガーを決めておきます。「仮説キーパー」という担当者を置くことまでも示唆しています。
「自分ナビ」作成プログラムでは
これは個人個人に任されていますが、あえて言えば「やってる?リマインダー」ですね。このサービスを活用して、自分なりに適切なタイミングで仮説を検証することができます。 - 倹約志向
『重要な仮説が検証されるまでは投資や経費を最小限に抑える』ことです。なにしろ仮説の上に立って物事を進めているわけですから、最初の試行錯誤の段階では大きな賭けを避ける必要があります。これは次のような上手い言葉で解説されています。『この倹約志向の原則は、小さな損失をもって大きな損失を避け、お金を使う前に想像力を使うことを求めている。』
「自分ナビ」作成プログラムでは
「ありたい自分」などと書いてみても、最初は自分の言葉のようには感じられません。その「ありたい自分」が、たとえば大きなキャリアチェンジとか移住とか、大きな決断をして後悔しないだけの確かなものであるという自信を持てないうちは、ちょこまかと「考えて、動いて、そしてまた」をやったほうがいいでしょうね。
わたしも折に触れて「人生はイベントドリブン」などと言ってきましたが、この”Discovery-Driven”、「発見ドリブン」という言葉のほうがしっくり来ます。イベントドリブンというと何かイベントが起きるのを待つ、「待ち」の戦略のようですが、「発見」という言葉には、そこに何かを見出そうという前向きな意志を感じます。
この本の中でも、その冒頭に
『DDP計画法は目的意識を持つことから始まる。』
と書かれています。
同じイベントに遭遇しても、そこから何を「発見」するかは人によって違います。やみくもに動き回るより前に、何を見つけようと思って動くのかを考えるステップを一つ置くことで「発見」の確率も上がるのではないでしょうか。起-動線のキャッチが「動く。考える。そしてまた」ではなく「考える。動く。そしてまた」という並びになっているのは、そんなメッセージを込めてのことでもあります。