好ましい偶然を起こす。
おかしな言葉です。意識的に起こせるものなら、それは偶然ではありません。
この言葉もちょっとした逆説 ―人目をひくために逆立ちしている真理― なのです。
これは高橋俊介さんの『キャリアショック』という本で見つけました。
積み上げ式のキャリア構築が通用しないとすれば、いったいどうすればいいのか?
そういう問題提起が起-動線の『「チャレンジ!」で見えてくる「ありたい自分」』によく似ているから読んでごらんよ、と教えられて読んでみた本です。
よく似ている部分の本質は、プランド・ハップンスタンス・セオリー(Planned Happenstance Theory)という理論(理論というより考え方という感じですね)にあるようです。
ひとことでいえば、変化の激しい時代には、キャリアは基本的に予期しない偶然の出来事によってその八割が形成されるとする理論だ。そのため、個人が自律的にキャリアを切り開いていこうと思ったら、偶然を必然化する、つまり、偶然の出来事を自ら仕掛けていくことが必要になってくるというのだ。
そして先日、これと同じ意味の異なる表現を見つけました。
田坂広志さんの『まず、戦略思考を変えよ』という本の一節です。
「波乗り」のメタファー。
それこそが、
現代の市場における新しい戦略思考を考えるときに
有効なメタファーである。これまでの「山登り」の戦略思考は、基本的に
「偶然性」というものを否定し、排除しようとしてきた。「波乗り」の戦略思考とは、
「偶然」というものを積極的に利用しつつ、
あくまでも自らの「意志」の求める方向に向かっていくという
戦略思考のスタイルである。波に運ばれることの「偶然」と、
その波を乗り切って
めざす方向に向かおうとする「意志」の弁証法。「偶然」に任せているようで、明確な「意志」を持ち、
「意志」に従っているようで、「偶然」を積極的に生かす。そうした弁証法的な思考こそが、
『まず、戦略思考を変えよ』
「波乗り」の戦略思考の本質である
山登りと波乗り。日本語としてよく練られているせいか、こちらのほうがスッと理解できました。『キャリアショック』では、従来のキャリアづくりは富士登山型・これからは連山型という比喩を使っています。