「進化型」という言葉のインパクト
フレデリック・ラルー 『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)は、人類の発達段階を組織に当てはめて、次のようないくつかの段階を定義しています。
- 【無色】 血縁関係中心の小集団。10数人程度。自分と他人、自分と環境といった区別がない。
- 【神秘的(マゼンダ)】 数百人の人々で構成される種族へ拡大。自己と他者の区別が始まるが世界の中心は自分。物事の因果関係への理解が不十分で神秘的。
- 【衝動型(レッド)】 組織生活の最初の形態、数百人から数万人の規模へ。力、恐怖による支配。マフィア、ギャングなど。自他の区分、単純な因果関係の理解により分業が成立。
- 【順応型(アンバー)】 部族社会から農業、国家、文明、官僚制、の時代へ。時間の流れによる因果関係を理解。計画が可能に。規則、規律、規範による階層構造の誕生。教会や軍隊。
- 【達成型(オレンジ)】 科学的、イノベーション、起業家精神の時代へ。「命令と統制」から「予測と統制」。実力主義の誕生。効率的で複雑な階層組織。多国籍企業。
- 【多元型(グリーン)】 物質主義の反動としてのコミュニティ型組織の時代へ。平等と多様性を重視、ボトムアップの意思決定。多数のステークホルダー。CSR。
- 【進化型(ティール)】 変化の激しい時代における生命体型組織の時代へ。自主経営(セルフ・マネジメント)、全体性(ホールネス)、存在目的を重視する独自の慣行。
人類のパラダイムと組織の発達段階(ティール組織) – *ListFreak
最新の段階が「進化型」と名づけられている点に、もやっとしました。本書の内容についてはあらためて学びをまとめるとして、今回はこの小さな違和感を少し掘り下げてみます。
他の段階は衝動型・順応型のように内容を表しているので、最新段階も、たとえば「生命体型」のように内容を表す名であれば、著者の主張が理解しやすかった。「進化型」では最新段階と言っているに過ぎず、段階を追って発展するものの最新段階は何であれ「進化型」と呼べてしまう。敢えて言語化すると、そう感じました。
「進化型」が現れている、変化はもう始まっている、現在は変曲点である。心に訴えかける強いメッセージですが、予兆レベルの事例は検証しようがないので、うさんくさい論を立てる人が好んで用いる論法でもあるように思います。
「現在は変曲点」という思考実験
ただ「現在は変曲点」というメッセージは、うさんくささを帯びるほどに強力なので、思考実験として有効に活用できます。
たとえば組織のビジョンを考えるトレ―ニング。「これまで」と「これから」の欄を作って、今が大きな変化の境目だと想定して「これから」を想像してもらうことがありますが、「これからはこれまでの単なる延長線上にあるので考えづらい」と言われたことはありません。参加者はその想定をスムーズに受け入れ、議論は必ず盛り上がります。
あるいは、ある企業の経営会議。組織のライフサイクルのような曲線をホワイトボードに描いておいて、現在地を指してもらったことがあるのですが、やはり全員が変曲点の周辺を指しました。
そういった組織は実際になんらかの変曲点にいるのか。それとも自分たちの願望や危機感が現実を歪めているのか。
その両方だろうと思います。そもそも、変化を実感しているからこそトレーニングや会議が開かれたのでしょう。加えて現実がどうであれ、組織は「現在を変曲点にする」と決めれば、そうできる自由を持っています。ここが単なる未来予測と違うところで、組織は望ましい未来に向けての変化を自ら起こせるのです。
不連続な未来を描くために
このような思考実験は、個人のレベルでも有益ではないでしょうか。
たとえば、これからの個人の働き方。現在が変曲点にあるとすると、どんな意味においての変曲点なのでしょうか。そして「進化型」はどこで何をしているのでしょうか。
『ティール組織』では、組織の世界観(自らを何になぞらえるか)が機械、家族、生命体と進化していると述べています。このような「たとえ」や「見立て」をいろいろ試してみるのが面白そうです。
たとえば、働くという行為が、賃仕事から遊びに進化しているとしたらどうなるか。社会人が大部分の時間を費やしている行為が、「仕事をしてお金をもらうこと」から、「お金を払って楽しむこと」に変化したらどうなるか。その世界では、お金はどう世の中をめぐるのか?遊びのほうはどう進化するのか?どこかに「進化型」が出現していないか?
あるいは、自分のキャリアが変曲点にあるとしたらどうなるか。自分の職業が何かにとって代わられるほどの変化が起きつつあるとすると、何が起きているのか?どこかにその「進化型」が出現していないか?
実際にやってみると、現状の延長線上で考えていたのではなかなか思いつけない問いが浮かんできます。見込みのありそうなシナリオを少し掘り下げてみようと思います。