鍵となる因子を特定する
15年ぶりに『シナリオ・プランニングの技法』を再読しました。当時の読書メモから、そのステップを引用します。
- 決定を下すべき問題は何か?(Focal Issue)
- その問題を解決する、鍵となる因子は何か?(Key Factors)
- その因子の推進力は何か?(Driving Forces)
- 重要だが不確実性の高い因子・推進力は何か?(Critical Uncertainties)
- その因子・推進力の変化を核としたシナリオロジックを2、3作る(Scenario Logics)
- そのシナリオロジックを物語に仕立てる(Scenarios)
- その物語の意味(戦略への影響)を読み取ると?(Implications)
- シナリオをチェックしていくための先行指標・道標は何か?(Early indicators)
シナリオ・プランニングのステップ – *ListFreak
たとえば決定を下すべき問題が「小売チェーンの業績向上」なら、鍵となる因子は「商品の魅力と価格と利便性(を高いレベルでバランスさせること)」。その因子がどう変化するかを考えるのがシナリオ・プランニングの要諦です。
この「因子(ファクター)を特定する」という考え方は、とても多くの思考法の基礎になっています。いくつか列挙してみます。
- 経営戦略の立案では、外部環境分析に基づいてKSF(Key Success Factors、成功の鍵)と呼ばれる因子を見出します。シナリオ・プランニングは戦略立案の方法論の一つなので、こちらが源でしょうか。
- 意思決定では、判断基準となる因子(論点)のセット、つまり枠組みを考えます。たとえば職場に人を採用するなら、能力と意欲と雇用条件のバランスについての要求レベルを明らかにしておき、それに見合う人を探します。
- 問題分析では、突き止められた主要な原因をしばしば因子と呼びます。
- 因果関係がなくても、数学や心理学では全体を構成する部分を因子と呼びます。たとえば人の性格は5因子からなるモデルが定説です。
「因」は便利な言葉
未来に備えるために、影響が大きそうな少数の因子を特定する。よい意思決定をするために、判断基準となる少数の因子を特定する。問題に対処するために、主要な原因を少数の因子として把握する。複雑な事象を理解するために、少数の因子からなるモデルを作る。こうしてみるとわれわれの思考法は「因子思考」と括ってもよさそうなほどです。
この因子の万能ぶりは、因子という言葉の多義性にも原因があるように思います。実際『全訳 漢字海 第三版』(三省堂)によれば、「因」は原因や条件を補って説明するときに用いられた言葉で、たとえば次のような句法があります。
- 原因や根拠を表す。「…にもとづいて」「…から」「…のために」
- 機会や条件を表す。「…にしたがって」「…に乗じて」
- 依頼や依拠を表す。「…にたよって」
- 仲介や経過を表す。「…を通して」「…をへて」「…のつてで」
もともと、ある結果が生じるに至った原因・条件・事情などを説明するためのかなり便利な言葉だったようです。
因子を少数特定できれば、考えやすくまた伝えやすくもなります。たとえば、小売チェーンでは鍵となる因子を「商品の魅力、価格、利便性」としました。ファストフードであれば「うまい、やすい、はやい」(吉野家のコンセプト)です。
実際には、因子は無数にあります。しかし主要な3つに絞り込んでおければ、人が言葉を使って考えやすい。言葉を使って考えられるということは、議論したりその結果を共有することもやりやすいわけです。性格の因子分析として普及しているのが25因子などでなく5因子なのも、人がその結果を扱いやすいからでしょう。
普遍的な因子のセットは使い回せる
よい因子のセットをゼロから見出すのは困難ですが、われわれが直面する問題には普遍性があるので、問題の抽象度を高めていくと、よく知られたフレームワークが使えるケースが多いと思います。
たとえば、ファストフードの「うまい、やすい、はやい」は、小売チェーンの「商品の魅力、価格、利便性」を特殊化したものでした。これを、買い物全般の因子セット「満足、価格、時間」を特殊化したものといえるでしょう。さらにいえば、買い物は投資判断、すなわち「効果対投資」を特殊化したものであり、ひいては一般的な判断基準である「メリット対デメリット」の特殊化といえます。並べると次のようなイメージです。
- (特殊)
- ファストフード 「うまい/やすい/はやい」
- 小売商品 「商品の魅力/価格/利便性」
- 買い物 「満足/価格/時間」 「Quality / Cost / Delivery」
- 投資判断 「効果/投資」 (投資=価格+時間)
- 判断一般 「メリット/デメリット」
- (普遍)
ファクター・シンキングなる思考法を作るとすると、それは第一に「ある結果に大きな影響を与える、少数の因子が存在する」という前提に立つことから始まるでしょう。
難しい問題に突き当たったときに思い出してみたいと思います。
「この問題に影響を与えている、鍵となる因子は何か?」と。