ご相談をうかがう:問題解決のプロセスに乗せて
リーダーシップ研修でうかがった企業での昼休み、ある工場のマネジャーAさんから相談を受けました。わたしより年上、ご自分を「現場叩き上げ」と呼んでいました。
合併したわが社では工場の組織にも大きな変化が起きて現場に不満が溜まっている、何をすべきか自分はずっと悩んでいる、というお話でした。近くのホワイトボードに組織図を描いて熱心に説明してくださいます。
職務の内容はわからなくても、考えをまとめるお手伝いはできます。話を次のようなステップに当てはめながらお聞きして、理解したことを返していけば、何をすべきかを決めるために考えることが見えてくるケースが多いです。
- [WHAT]問題は何か? ― 現状の結果と望んでいる結果との違いを図に描く
- [WHERE]問題はどこにあるのか? ― 結果を引き起こしている、現状を構成する要素を図に描く
- [WHY]問題はなぜ存在するのか? ― それぞれの要素を分析し、なぜそれが問題を引き起こすのかを明らかにする
- [HOW1]問題に対し何ができるか? ― 望んでいる結果をもたらす変更案を論理的に系統だてて書いてみる
- [HOW2]問題に対し何をすべきか? ― 最も満足のいく結果をもたらすよう変更案を統合して新しい構造を作り上げる
分析的な問題解決のプロセス – *ListFreak
ただ今回は、相手が自分でお考えを深めるのを妨げないために、試したいことがありました。
コミュニケーションのロードブロック
トーマス・ゴードン博士は「I-メッセージ」という言葉を発案された方。先日読んだ『リーダー・エフェクティブネス・トレーニング』の原著初版は1977年と古く、本書は2001年の改訂版が底本のようです。訳者が現代の事情を加味した長めの解説を添えてくれています。
本書で丁寧に解説されているのが、アクティブ・リスニングの技法。前回引用した会話でいう(B)の発言です。
メンバー: 私の能力でその仕事が務まるかどうかあまり自信が持てません。
トーマス・ゴードン 『リーダー・エフェクティブネス・トレーニング』
(A)リーダー: 君が挑戦すればできると私は確信しているよ。
(B)リーダー: 君はそれが手に負えなくなるのではないかと恐れているんだね。
仕事柄けっこう身についているスキルではないかという自負があり、知識補充程度のつもりで目を通したのですが、思わず膝を正す読書体験となりました。特に勉強になったのは、著者が「コミュニケーションのロードブロック」と呼ぶ、問題解決を阻害する発言のリストです。できるだけ切り詰めて引用していますが、それでもこれだけの種類があります。
- 【命令】 命令する、指図する、支配する
「~をしなさい」「~はダメです」「~を期待しています」- 【脅迫】 警告する、勧告する、脅かす
「~、さもないと~」「やらなかったら、〜」「~があなたのためです」「警告しますが、もし~」- 【説教】 道を説く、説教する、哀願する
「~をやった方がいいですよ」「~が当たり前です」「~があなたの責任/義務です」「あなたが~よう願っています/お勧めします」- 【提案】 アドバイスする、提案や解決策を与える
「私の考えでは、あなたは〜すべきです」「提案させてください」「〜するのが、あなたにはベストです」「なぜ~をやらないんですか?」「最善の解決方法は~」- 【講義】 論理的に説得する、講義する、立証する
「〜だと気づきません?」「事実は、〜に有利です」「事実をお見せしましょう」「これが正しいやり方です」「私の経験によると~」- 【非難】 判断を下す、批判する、反対する、非難する
「バカなことをしたもんだ」「理路整然と考えていませんね」「思い上がっています」「正しくやりませんでしたね」「あなたは間違っています」「口にするのもばかばかしい」- 【同意】 称賛する、同意する、肯定的に評価する、ゴマをする
「とても良い判断をしますね」「賢い人ですね」「とても可能性があります」「進歩しましたね」「これまで、いつも何とかしてきました」- 【侮辱】 悪口をいう、ひやかす、辱しめる
「だらしないですね」「ピント外れですね」「専門家みたいな語りぶりですね」「しくじりましたね」- 【分析】 解釈する、分析する、診断する
「そう言うのは腹が立っているからだね」「嫉妬しているのでしょう」「あなたに必要なのは〜」「あなたは~を問題視していますね」「よく見られたいんですよね」「こだわりすぎです」- 【同情】 安心させる、同情する、慰める、支援する
「明日になれば、違う目で見られるようになるよ」「そのうち良くなるさ」「夜は必ず明けるものさ」「どんな悪いことにも良い面がある」「そんなに心配することないよ」「そんなに悪くないですよ」- 【質問】 調べる、質問する、尋問する
「なぜそんなことをしたんですか?」「どのくらいそんな気持ちでいるんですか?」「解決のためにやったことは?」「誰かに相談しましたか?」「いつその気持ちに気付いたんですか?」「誰に影響されたんですか?」- 【ごまかし】 人の心を紛らせる、そらす、からかう
「いい面を考えよう」「当面考えないようにしましょう」「ランチでも食べて、そんなこと忘れましょう」「その話は私が〜した頃のことを思い出させるなぁ」「それがどうしたっていうの!」問題解決を阻害する、コミュニケーションのロードブロック – *ListFreak
たしかに「同意」や「同情」の言葉も、安直に発すれば相手の思考停止を招きます。相手が自分で解決に向けて考え続けることを促すためには、阻害要因をここまで注意深く排除していくべきなのかと気づかされました。
押し付けない・裁かない・止めない
振り返ってみると、「他の企業でお聞きした事例では~」「一般論としては~」のようなコメントを合いの手のつもりで入れながら話をうかがうことが多いと思います。せっかく相談に来てくださったのだから何かを提供したいとか、すこしは専門家ぶりたいとかいった気持ちがあるせいでしょう。
そこで今回はコメントを控えめにして、「ロードブロックになりそうなものを置かない」ことを意識して話をうかがいました。こちらがあまり意見を出さないと、アドバイスがないと感じるせいか、Aさんは「結局○○するしかないってことですよね」と急いで結論づけようとされます。そこでステップを遡って「○○が解決策ということは、(○○で解決できる)✕✕が問題の真因ということでしょうか」などとお聞きしてみると「まあ、他にもあるんですが……」と、付き合ってくださいます。
20分ほどして、Aさんはご自分なりの方向性を見出され、「すっきりしました。ありがとうございました」といって席に戻っていきました。こちらからは、本の引用もフレームワークも他社事例も解決のアイディアも、ほとんど何も提供していません。「聞いてくれればいろいろ言えたのに」と、こちらが言い足りない感じになってしまいました。
その後も別の機会で試行してみました。Aさんのような「本の事例のように進行した」ケースはまれで、ただ情報を取りに来た方を問題解決の会話に引きずり込もうとしてしまったり、いろいろ失敗もありましたが、ロードブロックを意識することで多くの気づきがありました。
今後とも意識しようとは思うのですが、現場で思い出すには種類が多すぎます。そこでまとめを試みました。
まず命令・脅迫・説教は、「自分の答えを押し付ける」と言えます。提案・講義も、それよりは弱いものの、同じカテゴリといってよいでしょう。
次に非難・分析・侮辱は、「自分の判断で相手の考えを裁いている」と言えそうです。 質問(尋問)も、やや苦しいですが、ここに入れておきます。
同意・同情・ごまかしは、暗に「それ以上考えなくていいよ」というメッセージを送ることで、たとえ善意からであっても「相手の思考を止める」結果を招きます。
- 【押し付けない(自分の答えを)】 命令・脅迫・説教・提案・講義
- 【裁かない(自分の判断で)】 非難・分析・侮辱・質問
- 【止めない(自分の価値観で)】 同意・同情・ごまかし
自分の答えを押し付けない。相手の思考を裁かない・止めない。思い出しやすい三つ組が作れたところで、引き続き試してみようと思います。