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コンセプトノート

712. やっかいな問題、単純な道具、現実的な見切り(2)

グループでの意思決定ステップ

前回のノート(やっかいな問題、単純な道具、現実的な見切り)では、「やっかいな問題」に対してグループが決断にいたるには2つの鍵があると紹介しました:

  1. (おさまるべきところに)おさまった、明確になった、行動の準備ができたといったエネルギーを感じたとき、あるいは
  2. 時間切れになったとき

1 については、なんとなく皆が満足したら、ではなく、IBIS(前回のノートを参照)を使った合意形成のステップもまとめられています。

  1. 重要な問いを出し尽くす
  2. 重要な案を支持する根拠を揃える
  3. 重要な案を支持しない根拠を揃える
  4. 各自、投票などによってどれかの案を支持する
  5. 判断基準を検証する
  6. 案を選択する

以下、かいつまんで解説・補足します。

「1. 重要な問いを出し尽くす」。グループの問いを集め、「この問いに答えられたら決断できる」と思える大きな問い (Big Question) を見定めます。

「2. 重要な案を支持する根拠を揃える」「3. 重要な案を支持しない根拠を揃える」。重要な問いに対してのアイディア(案)を挙げ、それらを指示すべき理由、反対すべき理由を挙げていきます。単に「案を評価する」とまとめられていないのは、考えがどちらかに偏りがちになるのを防ぐ知恵でしょう。特にグループで考える場合には、大勢を占める意見に対して反対を表明しづらいものです。

「4. 各自、投票などによってどれかの案を支持する」。面白いステップです。最終決定とは関係なく、いちど個人レベルでスタンスを取ってみることで、2と3のステップが豊かになる可能性があります(ステップと書いていますが、後戻り不可能な順番というわけではなく、チェックリストのようなものだと書かれています)。この時点で支持が少ない案は棄却できるかもしれません。

「5. 判断基準を検証する」。1.で挙げた問いの中には、大きな問い (Big Question)に答えを出すための問い (Criterial Question) が含まれています。それらの問いを

「6. 案を選択する」。ここで最終投票、というわけではありません。投票すなわち多数決も決定法の一つですが、他にも高職位者が決める、委任(決断者を決めて、その人の決断に従う)、調停ないし仲裁(第三者に両者が合意できる案を提示してもらう)といった決め方があります。

ひたすら議論を成熟させる

著者は、最後の決め方リスト(多数決、権威、委任、調停など)に「コンセンサス」(合意)が挙げられていないのを不思議に思うかもしれないと述べ、次のように補足していました。

コンセンサスは対話の結果生まれる「状態」であって「決め方」ではない。議論の終盤になって「そろそろ決めなければならない時間だ。案Aでコンセンサスが得られたようだから……」というのは、コンセンサスという言葉の正しい使い方ではない。

ひたすら議論を成熟させる、つまり1~5のステップを行き来しながら深めていく。もし幸運にも持ち時間の中でコンセンサス(合意)に達したならば、6は事実上不要ということでしょう。そうでなかったら、6.のステップを踏む。つまり決め方について合意して、決める。

このように整理しておけば、複雑な議題でも、次のように進めることで全員がベストを尽くしたという感覚を持ちやすくなりそうです。

  1. 最初に(可能なら会議に入る前に)決め方を決めておく。「最終決定は部長に一任する」など。
  2. 議論の時間が90分間あるとして、80分間はひたすら1~5のステップを踏む。
  3. 時間が来たら議論を終わらせ、6のステップに移る。

2 でのファシリテーターは、「結論を出す」のでなく「議論を成熟させる」「お互いの理解の共有度合いを深める」ことに専念すればよいことになります。個人的な経験を思い出すと、目的をそのように置けるのなら、気持ちを楽にして場に入り込むことができそうで、それは結果的に議論の成熟を導くことにつながるように思います。