心理的安全
昨年、EI理論(EQ理論)を支える学者の一人であるデビッド・カルーソ博士のワークショップに参加しました。タイトルは「グローバルな組織で感情的知能のスキルを教える」(“Teaching Emotional Intelligence Skills in Global Organizations”)。氏が世界各地のGoogle支社で行っている感情スキルのトレーニング方法を共有しよう、というものでした。
冒頭、トレーニングの原則がいくつか紹介された中で「心理的安全」(psychological safety)という言葉が印象に残りました。何を話しても大丈夫と感じる状況を作ることが、(EQに限らないでしょうが)トレーニングでは重要ということです。
心理的安全を保つ工夫とは、たとえばグループワークで個人的なエピソードを語ってもらったとして、その内容をクラス全体で共有しないこと。内容そのものはグループ内に留めてもらう代わり、ワークから得られた気づきや学びをクラスに共有してもらうそうです。
わたしもよく、研修の冒頭で「この場限り」という紳士協定を結びます。しかし、話をグループに留める、言ってみれば「この机限り」というのは初めてで、実際に体験してみると効果的だと感じました。
チーミングに必要なもの
それから一年後の現在、エイミー・C・エドモンドソン(Wikipedia) 『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(英治出版、2014年)を読んでいたら、また「心理的安全」が出てきました。
まったくの一般用語だと思っていたのですが、ある程度特定の概念を指す言葉のようです。Wikipediaにも記事があり、ほかならぬエドモンドソンの論文が複数引用されていました。
本書によると、グループメンバーが心理的安全を感じるためには、お互いの信頼と敬意が必要です(1)。しかしチームとして成果をめざすとき、心理的安全だけでは推進力が得られません。
他に、何が必要なのか。
心理的安全と責任(感)の両立
著者は機能するチームの条件として「心理的安心」に加えて「責任」という二本目の柱を建てています。
『責任によって、高い基準を守ったり挑みがいのある目標を追求したりすることを人々がどれくらい求められるか、その程度が決まる。』
チームの追う責任が大きくても心理的安心が低ければ「不安」で動けない。逆に心理的安心が高くても責任が小さければ「快適」で動けない。いかにも両立が難しそうな柱ですが、両立できればたしかに成果が上がりそうな柱です。うまく選ばれているなと感じました。
心理的安全は信頼と敬意からなっていますので、
成果をあげる組織=(信頼+敬意)✕責任
と書けるでしょうか。
(1) 訳書では信頼と尊敬となっていますが、原著のTrust and Respectという言葉の意味合いを踏まえて本ノートでは信頼と敬意と訳しています。