「決めどき」は難しい
「急がば回れ」「急いては事を仕損ずる」と、決め急ぎを戒めることわざがあれば、「巧遅は拙速に如かず」「善は急げ」のように決め逃しを戒めることわざもあります。それほど決めどきをつかむのは難しいということでしょう。ノート一本で解決できる問題ではありませんが、簡単に整理を試みてみます。
決め急ぎ・決め逃しはどんな状況で起きるのか
まずは、決め急ぎ・決め逃しが起きる状況を考えてみます。決定を、結果が出てから振り返り「タイミングが最善ではなかった」と思うとき、何を考え(感じ)ていたのか。ざっくりこんなところかなと思います。
- これ以上よい選択はなく、迷う理由はなかった(決め急ぎ)/少し待てばもっとよい選択肢が出てくると思った(決め逃し)
- 時間が経つほど選択肢が限定されると思った(決め急ぎ)/時間が経っても選択肢は減らない、あるいは時間が経つほど選択肢が増えると思った(決め逃し)
- 決めないまま宙ぶらりんにしておくのが心理的に困難だった(決め急ぎ)/今ここで決めてしまうのが心理的に負担だった(決め逃し)
これらの思考ないし感情をもう一段さかのぼってみると、2つの判断軸の誤りに収斂するように思います。
一つめは感情的な苦楽という判断軸。合理的に考えれば待つべきなのに、宙ぶらりんに耐えかねてエイヤで行動してしまったり、すぐ行動すべきなのにぐずぐずしてしまったりしたために「決め急いで(決め逃して)しまった」と感じるパターンです。
二つめは合理的な(はずの)、損得を勘定する判断軸。決定のタイミングと結果として生じる損得の読みがずれていたために「決め急いで(決め逃して)しまった」と感じるパターンです。
- 【苦楽の軸】 今決めないのは苦(決め急ぎ)/今決めてしまうのは苦(決め逃し)
- 【損得の軸】 今決めなければ損(決め急ぎ)/今決めてしまうのは損(決め逃し)
なぜ、決め急ぎ・決め逃しが起きるのか
動物は生存のためにまず危険を回避せねばならないので、ネガティブな情動が発達しています。よく使われる5つの基本感情のうちポジティブな感情は「喜び」のみで、残りの「怒り・悲しみ・恐怖・嫌悪」はネガティブな感情です。われわれの情動システムはさまざまな苦を予想し、捕捉し、鋭く反応し、回避行動を促します。
おそらくはこの性向が損得勘定にも反映されています。大まかに言って、10%失う痛みは10%得をする喜びより2倍大きいと言われています(プロスペクト理論)。われわれは損失を予測すると、それを回避する方向への決定バイアスが鋭く働きます。
もちろん、楽や得を期待しすぎて決め急いで(決め逃して)しまうケースもありますが、上記のようなメカニズムを考えれば、苦や損を予測したときにわれわれは決め急ぎ・決め逃しをおかしがちだといえるのではないでしょうか。
決め急ぎ・決め逃しをどう防ぐか
とすると、決めどきを測る最初のステップは、自分の判断が「今決めるべき」「まだ待つべき」のどちらに傾いているかを知ることでしょう。
次に、その理由を探ります。苦から逃れたい、損をしたくないという理由から判断している場合には、おそらく補正をした方がよいわけです。ただ、どのように補正をするかが難しいですね。たとえば決め急ぎたくなる場合には、先延ばしのメリットを2倍増しで見積もればよいのでしょうが、人間に根付いたバイアスであるがゆえに、書くほど簡単にはできなさそうです。
毒をもって毒を制すの発想はどうでしょうか。決める・決めない両方の道で発生する苦や損を思うことで、判断の偏りを小さくできないでしょうか。
- 決めずにいるのは苦しい(から決めてしまおう) → 後から良い手が見つかったときにもっと苦しい思いをするのでは?急いで決めて苦しんだことはなかったか?
- 今決めてしまうのは苦しい(から決めずにおこう) → 今決めないともっと苦しくなるのでは?先延ばしをして苦い思いをしたことは?
あまり愉快な発想ではありませんが、せっかくなので試してみようと思います。