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コンセプトノート

605. IQとEQを支える3要素と、それを鍛える3C

IQの要素分解

知能は単一の因子(g因子)に依存するといわれています。しかしこれは高次の認知力を示す人工的な概念で、3つの機能に要素分解できるという論文を読みました。これらの機能は独立性が高く、解剖学的にも脳の異なる領域で担われているとのこと。

  • 短期記憶
  • 推論
  • 言語能力

知能を構成する3要素*ListFreak

知能についてはさまざまな理論が提案されているので、これを決定版と呼ぶには、さらなる時の試練が必要でしょう。ただ少なくとも、わかりやすく納得しやすい枠組みではあります。考えるとは、情報を「短期記憶」に入れ、それを材料に「推論」することにほかならず、どちらも「言語能力」によって促進されます。

EQの要素分解、そして両者の類似点

上記がIQの要素分解だとすると、EQの要素分解としてはEI理論という能力モデルが知られています。本ノートで何回も引用してきていますが、今回は平易な私訳を紹介します。

  • 【気持ちを感じる】 自分や他者の気持ちを感じ取る。言葉以外でも気持ちを表現する
  • 【気持ちをつくる】 目的にふさわしい気持ちをつくる
  • 【気持ちを考える】 自分や他者の、気持ちの過去(なぜそういう気持ちになったか)と未来(これからどうなるか)を考える。気持ちを的確な言葉で表現する
  • 【気持ちを活かす】 上の3つの能力を常に働かせ、考えに組み入れたうえで行動を選ぶ

EQ4つの感情能力*ListFreak

両者の構造には共通点がありそうです。【気持ちを感じる】能力の主目的は、自他の感情に関する情報収集。考える材料を集めて蓄えるという観点からは、短期記憶に通じます。【気持ちをつくる】のは、よく【気持ちを考える】ため。そして【気持ちを考える】とは、感情に関する推論と言語運用の能力にほかなりません。【気持ちを活かす】はややメタな能力として定義されているのでここでは除くと、IQとEQの定義の共通点がはっきりしてきます。まとめておきましょう:

  • 情報収集(情報を収集して脳内に蓄える)
  • 推論(それらの情報から原因分析や意思決定を行う)
  • 言語運用(情報収集や推論、さらには表現のために言葉を使いこなす)

もとよりEI理論はIQの対抗概念として提案されたのではなく、人の知能はいわゆるIQ検査で測れる能力だけではないという多重知能理論のようなアイディアを背景としています。ですから、EQの要素が一般的な知能の要素に似通ってくるのは当然といえば当然です。EI理論が1990年代に確立されたことを考えれば、提唱者らの先見の明をたたえるべきでしょう。

知能を鍛える3C

さて、情報収集・推論・言語運用といった能力を鍛えるために、どんなトレーニングをしたらよいか。

言語運用ということは、書く・話すといったアウトプットが欠かせません。日記や独り言など自己完結する行動よりは、相手がいた方が緊張感もあるしフィードバックも得られるのでよいでしょう。

それを念頭に置いて3つの活動を選び、「知能を鍛える3C」としてまとめてみました(Cで揃えるために、やや苦しい言葉づかいを含めてしまいました。このあたりがわたしの言語運用能力の限界か……)。

  • 作文(Composition):不特定多数に向けた意見の開陳。ブログ・記事投稿・出版など
  • 会話(Conversation):特定の相手とのリアルタイムコミュニケーション。雑談・会議・電話など
  • 文通(Correspondence):特定の相手との文章によるコミュニケーション。メールやメッセージの交換など

作文(Composition)の代表例はブログです。情報を収集し、それらを頭に入れたうえで書くべき内容を考えて、文章として表現します。ですから総合トレーニングですし、部分的なトレーニングもデザインできます。たとえば、短期記憶のトレーニングとして「書き出したら何も見ない」とか、推論のトレーニングとして「かならず具体的な提案にまで思考を進める」とか、言語運用のトレーニングとして「かならず新しい語彙を1つ使う」とか。

会話(Conversation)は親しい人とのおしゃべりや会議を含む、いわゆる「話す」活動全般。相手の表情を読むことはEQ的な情報収集のトレーニングですし、作文よりもリアルタイム性が圧倒的に高いので、推論や言語運用の瞬発力が鍛えられます。

文通(Correspondence)は、メール、SNSグループ、1対1メッセージなど、文章によるコミュニケーション全般。チャネルが(絵)文字だけに限られるのが特徴です。チャットのようにリアルタイム性の高いものから手紙の文通のように低いものまでバラエティがあるので、それぞれに違った鍛えどころがあります。

よく書きよく話すためには、よい相手が必要です。仕事であれ生活であれ楽しく話せる仲間、大胆な推論を披露したりちょっと凝った言葉をぶつけてみたくなる仲間は、お互いの知能の維持向上に貢献しあっている貴重な存在ともいえそうです。