課題と答えは同時にできあがってくる
御立 尚資さんの『使う力』という本を読んでいて、問題解決の勘所がうまく表現されていると感じる表現に出合いました。
質の高い課題設定が、「使う力」の発揮しどころ
(略)今何が問題になっていて、何に対して答えを出さなければいけないのか、ということを正確につかむのは、意外と難しい。
(略)実際の「頭の使い方」としては、課題の仮説と、答えの仮説の両方を行ったり来たりしながら、課題自体を固めていくというプロセスになる。極端な言い方をすると、課題と答えは同時にできあがってくるのだ。これも大事なコツだ。
―― 御立 尚資 『使う力』
「大事なコツ」を「極端な言い方」で伝えるのはなぜか。著者の心情を勝手に推測すると、こんなところでしょうか。
「誤解されそうだが、コツとして覚えておくにはぴったりの表現がある。ここまで読んでくれた人なら真意を理解してくれるだろうから、あえて紹介しよう」
そもそもコツというのは言葉では伝えきれないものを含むので、感覚的な言い方になることが多いものです。文脈を十分共有していない人からすると極端な言い方と感じる言葉もあるでしょう。わたしが身を置いている学びの現場でも、新しい概念を参加者同士が自分の言葉で言い換えていく中で「テキストを読んでもよく理解できなかったけれど、あなたの言い方を聞いて初めて腑に落ちた」といったことが実際に起きています。
そこでこのノートでは、「課題と答えは同時にできあがってくる」というコツについての、わたしなりの解題をしておきたいと思います。
問題と答えの間に課題を置く
冒頭の引用文には、問題と課題という言葉が使われています。辞書ではしばしば循環的に参照される、つまり互いに互いを定義しあっている言葉で、一般にもそれほど厳密には区別されていません。
でもニュアンスの違いはあります。たとえば会社の決算説明会で、社長が「当社の経営課題は~」と言うことがあります。「当社の経営問題は~」とは、まず言いません。前者は解決される見込みがすでに立っていそうですが、後者は五里霧中な印象です。
問題解決の分野では、問題と課題の間には割合はっきりとした区別があります。流派?によって違いはあるものの、わたしなりにひらたく定義すればこうなります。
- 問題は、本来こうあってほしいのに、現状はそうでないという気持ち。
- 課題は、こうあってほしい姿に近づくために乗り越えるべき壁。
- 答えは、壁を乗り越える最善のやり方。
問題解決といっても、売れないという問題を直接解決するわけではないところがミソです。大事なコツを極端な言い方で伝えるやり方にならって言えば、「問題は解決できない」のです。
たとえば「売れない」のが問題であれば、分析をして原因を考えます。それが「接客の悪さ」らしいとなれば「接客を良くする」という課題を設定し、「社内勉強会」という答えを実行するでしょう。問題・課題・答えの三者はこのような関係にあります。
論理的には前から、つまり問題→課題→答えと進むべきです。しかし実際には分析すべき事象が大量にあったり、論理的には最善の答えが見つかっても実現可能性に乏しかったり、とても時間のかかるプロセスになりがちです。
著者のアドバイス『実際の「頭の使い方」としては、課題の仮説と、答えの仮説の両方を行ったり来たりしながら、課題自体を固めていく』は、それを踏まえてのものです。つまり次のようなシナリオが現実解として機能しそうかどうか、双方向の流れをチェックしながら課題と答えを収束させていこうということです。
問題の解決(売れる?) ←→ 課題の仮説(接客の改善?) ←→ 答えの仮説(社内勉強会?)
このような思考の流れを一言でイメージさせてくれる言葉だとハッとさせられたのが、「課題と答えは同時にできあがってくる」だったのでした。