ミニレビュー
原題は”The Paradox of Choice: Why More is Less”(選択の逆説)。選択の本なので2004年に原書が出たときに買ってみたのですが、読み終わるか終わらないかという早いタイミングでこの訳書が出版されました。やっぱり日本語で読みたいな、でも原書も買ったしこちらも結構高いしな……などと考えているうちにすぐに絶版になってしまって現在は入手困難、という、個人的ないわくのある本です。
意思決定のバイアスについてのくだりは類書(行動経済学とか、やはり意思決定ものの本とか)との共通点が多いのですが、この本の最大の特徴は選択のスタイルを最大化(マキシマイズ)と満足(サティスファイス)に大別して論じていること。前者のスタイルを持つ人をマキシマイザー、後者をサティスファイサーと命名しています。マキシマイザーは、すべての選択肢を調べ尽くさねば気が済まないので、過剰なまでの選択肢が用意されている原題においては幸福度が下がってしまうと主張しています。
いやまてよ、一流のスポーツ選手は飽くなきマキシマイザーではないか?と思いますよね。著者は『完璧主義者は基準を高く掲げながら、そこに手が届くとは思っていない。マキシマイザーは、基準を高く掲げて、きっと手が届くと思う』という違いがあると述べています。結果として『完璧主義度のスコアが高いひとは、マキシマイザーとちがって、憂うつでもなく、後悔しやすくもなく、不幸せでもない』とのこと。
つまり、選択肢の「最大化」そのものが悪というよりは、満足あるいはあきらめられるポイントを見いだせないことに問題がある、という感じですね。仏教の三毒(貪瞋癡)でいう「貪」ということでしょう。このあたり、飽くことなくベストを追い求めることと心の平穏を保つことの両立について、もうすこし詳しく読みたかった。