ミニレビュー
●直感は意外に正しい
『ティッピング・ポイント』(『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』として文庫化)のマルコム・グラッドウェルが、直感に着目して書いた本。原題は”blink”。この方は社会科学者ではなくて雑誌「ニューヨーカー」のライター。前作同様、鮮やかな切り口です。さすがというべきですね。
『「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』という副題を読んで、それこそ直感的に「なんとなくおかしい」と感じました。この副題の通りならばわたしの直感は正しいので、この副題は間違っています。では『「最初の2秒」の「なんとなく」は正しくない』とすると、わたしの直感は実は正しくなくて、結局『「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』ことになる?
……中を読んでいくと、著者は常に直感が正しいと言っているわけではありません(つまり、副題がおかしいというわたしの直感は正しかったわけですね )。著者は社会科学の実験や面白い事例を縦横に駆使して、人間の直感の素晴らしさや偏りについて、これまで何が分かっているのかを教えてくれます。総じて言えば『「最初の2秒」の「なんとなく」は、世間一般に思われているよりも正しい』というところでしょうか。様々なトピックが組み合わさっているので、結局のところ直感は当てになるのかならないのかを知りたいと思って読んでいるいくとやや混乱してしまうかもしれません。
敢えてまとめるとすれば、「人間の認知のクセを知ったうえで経験を積んでいけば、その分野に関する直感は徐々に正しくなっていく」はず、ということになると思います。こうやってまとめると目新しいことは何もないように感じられてしまいますが、夫婦の会話を15分間観察すれば離婚の確率が分かるとか、面白い実験や事例が多くて楽しく読めます。わたしの好きな『決断の法則 ― 人はどのようにして意思決定するのか?』も採り上げられていて、嬉しかった。直感に基づいた決断といえば、やはりこの本が面白い。
●第1感?
“Blink”が「第1感」というタイトルで訳出されたと知ったときも、直感的に違和感を持ちました。第1感と聞くと、いわゆる五感(見る・聞く・触る・味わう・嗅ぐ)の範疇に入るように感じてしまったのだと思います。本の内容からすれば「第ゼロ感」ですね。零感と書けば霊感にも通じます。
ところで、いまAmazonで見ると、オビの言葉は『人間には理屈を超えた”何か”がある − 心理学で注目を集める「適応性無意識」とは?』となっています。しかしわたしの手元にある本のそれは『データ、論理、会議はもういらない − 「ひらめき」で判断する驚異の思考法!』。後者はあまりにも内容とかけ離れているので、途中で変えたのでしょうね。
訳者あとがきによれば「適応性無意識」は一般には「適応的無意識」と呼ばれているそうです。興味のある方はこちらの言葉で検索した方がヒットしそうですよ。