ミニレビュー
以前『なぜあの人だと話がまとまるのか?』という本を読者向けにご献本いただいた、田村洋一さんの新刊です。今回も起-動線読者向けにプレゼントしてくださいました。
何をもって「人生をマスターした」と言えるのか?
まず、このタイトルが気になりますよね。「真実を探している人を信じなさい。真実を見つけたという人を疑いなさい」という名言に従うと、「人生をマスターする方法」を伝授するという人は、疑ってかからねばなりません 。この本で言うところの「人生をマスターする方法」とは、こういうことです。
この本を通じて読者の皆さんにお伝えしたいことはたったひとつです。それは、大局的に自分自身の目指すところを見えるようにして、そこに近づくための方法です。(「はじめに」より)
おなじく「はじめに」に、『大局的に現実を見据えて、自分が行きたいところへ行く』ことを「戦略的」であると定義されていますので、「戦略的になる方法」についての本だと言い換えることができます。
そんな本書は、大まかには理論−実践−態度編という感じの3つのパートに分かれています。以下、内容を簡単にご紹介していきます。
人生をマスターするために必要なたったひとつのこと
Part1は「人生をマスターするために必要なたったひとつのこと」。20の、2〜3ページの文章からなっています。その「たったひとつのこと」が何かについては明記されていないのですが、敢えて特定するならば、(ビジョンでなく)メタビジョンを持つことだと理解しました。
安易な夢やビジョンの中には、「お金持ちになりたい」とか「有名になりたい」とかいう世俗的な欲望や願望を映像化したものが多いのです。(略)
そこから一歩、先に進めて、「それが自分にとってどういう意味を持つのか」「その夢や目標の、目的は何なのか」と突き詰めてみてください。英語で”So what?”という問いがあります。「それで、どうした?」とか、「話はわかった。で?」という問いですね。(略)
この問いに対する答えをメタビジョン(超目的)と呼びましょう。(p59)
メタビジョン(超目的)という言葉は難しげですが、当サイトでいうところの「ありたい自分」とまさに同じですね(実際、自分ナビ作成プログラムにはソレデちゃんとの対話というエクササイズがあります)。
人生をマスターする基本技術
Part2「人生をマスターする基本技術」では、Part1同様に2〜3ページの短い文章が33項にわたって連なっています。といってもバラバラではなく、内容は3つから4つのカテゴリにまとまっています。
「人生をマスターする方法」というタイトルから、その方法を支える方法論があるのかなと予想する読者もあるかもしれませんが、著者は「人生をマスターする 7つのステップ」みたいなものを定義しているわけではありません。「方法」というタイトルに直接的に答えているのは、この章で紹介されるさまざまな「基本技術」の集積ということになりましょう。著者の深い学識に基づいた、さまざまなエクササイズが紹介されています。
「基本技術」といっても、ライフハックのような「技術」ではありません。例えば読書なら、本をただの情報源と見なさず、「没頭」し、さらには「達観」してみたらどうかと、問い掛けています。
速読メソッドの多くは、何かをつかみとろうとしている限りにおいて、理解の限界を設定してしまっているのです。つまり、すでに理解している範囲でしか理解できない。それはただの情報収集です。
トレーニングブック
この本は、「ひとりでできるトレーニングブック」として定義されており、20の演習が用意されています。その演習のフォームはWebサイトで公開されているので、それを眺めてみると本書の雰囲気が掴めるかもしれません。
「2冊目」以降を探している方へ
文章は分かりやすく、演習も豊富。しかし入門書というよりは、「戦略的な生き方」を自分なりに模索されてきた方によりフィットすると感じました。その理由の一つめは、類書や類似概念との対比においての説明が少なからずあること。これはある程度深いメッセージを語ろうと思ったときには避けられないことでしょう。二つめは、演習の抽象度が高めであること。演習の問い掛けと設定されている時間からすると、ある程度自分なりの模索や蓄積がある方に新たな示唆を与えることが、著者のねらいのようです。