ミニレビュー
原著の出版から10年を経て、2007年に新装日本語版として出版された本。さすがに事例は古いものの、たしかに現在日本で読むにふさわしい内容です。
なぜ、いま「個を活かす企業」なのか
個を活かさない企業よりは活かす企業のほうがなんとなく良さそうです。が、本当にそうなのか。なぜ以前よりも今のほうがそうなのか。
著者はそうである根拠として、最も貴重な経営資源が金融資産から知識へと移っている事実を指摘しています。
世界中で多くの企業を巻き込んだ変革を推進する最も強大な力とは、経営資源が比較的不足するなかで起こっているシフトである。私たちが目の当たりにしてきたのは、知識が資本に代わって企業の最も貴重な戦略資源になるに従って、金融資産を分配し管理するための戦略、組織構造、システムが、情報や知識を開発し、それを活用するのに適した企業モデルに変わっていったことだ。(p251、太字は引用者による)
3Sを越えて3Pへ
では、「個を活かす企業」への変革には、何が必要なのか。本書は3Sを越えて3Pへの変革が必要であるとしています。3SとはStrategy(戦略)−Structure(組織構造)−System(システム)、3PとはPurpose(目的)−Process(プロセス)−People(ヒト)の略。
「3Sを越えて3Pへ」とはどういうことか、本書から象徴的な文章を選り抜いてみました。
●戦略を越えて目的へ
戦略は、広範な組織としての目的に組み入れられて初めて、強く長く感情移入できる対象となるのである。(p368)
●組織構造を越えてプロセスへ
「戦略−組織構造−システム」の経営教義は、経営資源を配分し、責任を割り振り、業務が効率的に遂行されるよう管理することに重点を置くものであり、今日でもマネジャーのほとんどがいまだに依存している。「目的−プロセス−ヒト」の経営教義は、組織の主要な業務は社員の行動を定め、彼らがイニシアチブをとり、協力し、学べるような環境をつくり出すことだという前提に立っている。(p375)
●システムを越えてヒトへ
この変化が意味するのは、従来のように方向性を決めるためのプランニング・システムに依存するのではなく、主要な人材を特定の仕事に配置して、企業の進化を図ろうとすることだ。(p377)
本書は豊富な事例を挙げて「個を活かす企業」の条件を洗い出し、企業が自己変革を続けるための方法論をまとめようと試みています。
「個を活かす企業」にあっては、企業の自己変革とは社員一人ひとりの自己変革にほかなりません。エキサイティングではありますが不安定さは増すでしょう。これから個人に何が求められるか、何を磨くべきかを考えるうえで、読んでおきたい一冊。