ミニレビュー
ISL(Institute for Strategic Leadership)代表である野田智義さんと神戸大学教授である金井壽宏さんの往復書簡のような体裁のリーダーシップ論。
往復書簡といっても、正面から向き合った「対話」ではありません。同じ方向を向き交互に独白を重ねながら時々視線を交わすという感じです。
どちらかといえば、野田さんが持論を披露して金井さんが合いの手を入れるようなバランスになっています。金井さんの書かれた「あとがき」によれば、そのように意図された構成のようですね。
この共著では、リーダーシップを研究するのではなく、実践している野田さんの視点を何よりも最優先した。もちろん、私も長年リーダーシップについて研究してきた人間として、できる限り野田さんの論点をフォローする知見はちりばめさせてもらった。(あとがき)
この本で印象的だったのは、「アクティブ・ノンアクション」という言葉。
毎日を多忙に過ごしているにもかかわらず、本当に必要で意義があり、真の充足感をもたらしてくれる何かについては、まったく達成できていない状態。行動しているように見えて(アクティブ)、実はなんの行動もしていない(ノンアクション)という危険な落とし穴だ。
こう言われると、誰でもヒヤリとします。というのは、この文章には少しずるい仕掛けがあるからです。
「【本当に】必要で意義があり、【真の】充足感をもたらしてくれる何か」を達成しているかと聞かれて、Yesと迷わず答えられる人はいないでしょう。
では、どこに【本当】の意義や【真の】充足感を求めるべきなのか。「リーダーシップの旅」とは、いわゆる「自分探しの旅」から始まるのか。
これはYesでありNoでもあります。何が自分にとって【本当】で【真】なのかを見極める内省をするべきという意味においてはYes。どこかよそから【本当】や【真】を教えてもらおうという意味においてはNoです。
セネカが語る「怠惰な多忙」、スマントラが注目する「アクティブ・ノンアクション」の意味はもうお分かりだろう。現在を忙しく生きてはいるが、今やっていることの意味を探すような来し方の内省をせずに、過ぎ去る今日を集中力なく気が散るままにカラ元気で生きるのは、よしたほうがいいということだ。(p171)
著者たちの経験と学識とがない交ぜになった旅行記として、楽しく読みました。