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バリューシフト―企業倫理の新時代


ミニレビュー

書評:バリューシフト

企業評価に関して、大きな価値観の移行(バリューシフト)が起きているというのが著者の立脚点。それは突然始まったものではありませんが、2002年のエンロン事件など企業による不正行為がいくつも明らかになったことをきっかけとして、流れが加速しているとみています(原書は2003年刊)。

引用:

 

かつては資本をプールするための便利な手段としか考えられていなかった企業が、社会における能動的な存在と見なされるようになったのである。
 今日の一流企業に期待されていることは、富の創造、優秀な製品とサービスの提供ばかりではない。「道徳の行為者」としての行動、すなわち責任の主体として、道徳的な枠組みの範囲内で事業を運営することも求められているのだ。
(はしがき)

目次で大まかに内容が分かると思いますので、目次を引用します。

第1章 バリューへの着目
第2章 倫理は得になるか
第3章 ひとまず現実をチェックする
第4章 企業人格の変遷
第5章 高い基準
第6章 新しいバリューの提示
第7章 高い基準のもとで実績をあげるには
第8章 意思決定のコンパス
第9章 センター主導の会社

倫理は得になるか

まず目を引かれたのは、第2章「倫理は得になるか(Does Ethics pay?)」。SRI(社会的責任投資)ファンドのパフォーマンスは市場平均を上回っているというデータをときおり見かけますね。この本でも幾つかの事例を通じ、バリューを重視する企業はそうでない企業に比べて不祥事などのリスクが小さいこと、社員のモチベーションや評判が高まることで長期的な経営の安定が期待できること、などをメリットとして挙げています。
もっとハードな問い、つまり「倫理的に振る舞うことは経済的に報われるのか?」という質問に対してはどうでしょうか。『企業の財務実績と社会的実績の関係を調べた約九五種類の学術調査を概観(p96)』した著者によれば、『どの調査も、企業倫理の力を測定する点では充分でなく、倫理能力と財務実績とのポジティブな関係を証明してもいなかった』そうです。ただ両者が相反するという結果に至った調査は4つしかなく、55の調査では好ましい相関関係が観測されていたとのこと。
著者は第6章にいたって、そもそも「倫理は得になるか」という問い自体に潜む問題を次のように指摘しています。

引用:

 

一見、「倫理は得になる」という言い方はバリューの重要性を裏づけているかのようだが、よく考えてみれば反対のことを言っている。(略)「倫理は得になる」という主張は倫理を道理にかなった規律と見なしてもいなければ、バリューを本質的に重要なものと見なしてもいない。むしろ、バリューは経済的な目的に役立つかぎり重要だといっているのに等しい。(p217)

これは経営者だけでなく投資家である我々も留意すべきポイントでしょう。

意思決定のコンパス

本当に読みたかったのは後半の三章、特に最後の二章でした。しばしば相反する価値基準をどのように意思決定に組み込んでいけばいいのか。その問題に取り組んでいる章です。
経済vs倫理という2軸ではシンプルすぎます。

引用:

 

 重要な決断で、道徳的な側面が一つしかないケースはめったにない。あるところへの守秘義務が別のところへの誠実義務とぶつかるなど、二つ以上の価値基準が衝突する場合がほとんどなのだ。(p316)

この本では、多面的な「質問」をベースにした意思決定を提案しています。これは『「決定的瞬間」の思考法』と似たアプローチで、目的・原則・人・力の4方向から問いかけていくことにより、意思決定をする上で考慮すべき問題を浮き上がらせることを意図しています。

400ページを超える本ですが、読み応えのある事例も多く、企業の社会的責任に興味のある方ならば一気に読み通せると思います。

コンセプトノート

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