- タイトル:イノベーション・マネジメント 成功を持続させる組織の構築 (ウォートン経営戦略シリーズ)
- 著者:トニー・ダビラ(著)、マーク・J・エプスタイン(著)、ロバート・シェルトン(著)、スカイライトコンサルティング(翻訳)
- 出版社:英治出版
- 出版日:2007-02-09
ミニレビュー
収穫してこそのイノベーション
本書は、「どうすればイノベーションを起こせるか」ではなく、「どのようにイノベーションに取り組むべきか」について書いている。本書には、しばしば価値創造(Value Creation)と、価値獲得(Value Capture)という言葉が登場する。「イノベーションを起こす」といった場合、私たちの多くは価値創造をイメージする。だが、イノベーションは手段であって目的ではない。私たちは、「どうすればイノベーションの成果を得られるか」、すなわち価値獲得に焦点を合わせる必要がある。(訳者まえがき)
イノベーションというのはかなり広い概念です。ピーター・ドラッカー氏は、企業の機能はつまるところイノベーションとマーケティングであると書きました(どの本だったかは失念…)。つまり「新しい価値を産み出して」「それを世に広める」ということですね。となると、イノベーションには研究・開発から市場化にいたるまでの全てが含まれることになります。
本書ではイノベーションの明確な定義はされていないのですが、以下の箇所などから、ほぼ上記の定義でよさそうです:
自由と規律を併せ持った組織では、イノベーティブなアイデアの創出とその市場化(価値獲得)の両方が、高いレベルで継続できる。そのような組織をどう作るのかを示すのが、本書の目的である。(p50)
イノベーション管理の「教科書」
この本は「イノベーションは管理できる」という立場から、とりわけ市場化(価値獲得)のプロセスを支える組織作りに重点を置いています。目次を見ておきましょう。
第1章 イノベーションの起こし方
第2章 イノベーションのタイプと活用法
第3章 勝つイノベーション戦略
第4章 イノベーションを実現する組織
第5章 イノベーション・プロセスを設計する
第6章 イノベーションを測定する
第7章 イノベーションを促進する
第8章 イノベーションを学習する
第9章 勝つ企業文化をつくる
第10章 イノベーション・ルールの実践に向けて
第10章のタイトルに含まれている「イノベーション・ルール」がこの本の骨格をなしています。見出しだけ取り出すと「当たり前」感を覚えるかもしれませんが、それでも紹介しておきます。
1. イノベーションの戦略とポートフォリオを決定する際に、強力なリーダーシップを発揮する。
2. イノベーションを会社の基本精神に組み込む。
3. イノベーションの規模とタイプを経営戦略に合わせる。
4. 創造性と価値獲得のバランスをうまくコントロールする。
5. 組織内の抵抗勢力を抑える。
6. 社内外にイノベーションのネットワークを構築する。
7. イノベーションに適切な評価指標と報奨制度を設ける。
400ページ近い、なかなかの大著です。目次からも分かるとおりかなり網羅的で、事例も豊富。どちらかと言えばアカデミックな部類の本であって、実務者がそのまま使えるマニュアル本ではありません。組織設計・運営を考えたい方のための教科書と捉えて臨むとよいかと思います。