ミニレビュー
スモールワールドという考え方そのものは驚くほど単純である。必要なのは、少数の長距離リンク、もしくはきわめて多数のリンクをもつハブだけで、これでもうスモールワールドになる。こんな単純な事実が、人間の脳や、われわれを社会につなぎとめているさまざまな人間関係の網(ウェブ)、さらには話したり考えたりするときに使う言語にいたる、あらゆる構造にスモールワールド・ネットワークが生じる理由を明らかにする。(p338)
6次の隔たり、弱い紐帯、ティッピング・ポイント、スケールフリーネットワーク、べき法則(べき乗則)、スモールワールド。こういった言葉が出てくる領域を指すのに「ネットワーク科学」という言葉が適切なのかどうか分かりませんが、それらの研究の経緯と現状をまとめた本。
「ネットワーク」つまり点と線(点同士を繋ぐリンク)としてモデル化できるものなら片っ端から(と思えるくらいたくさん)シンプルなモデルで説明されてしまう様子はとてもエキサイティングです。
例えば、あらゆる社会で決定的な貧富の差が生じています(p310)。社会を、お金のやり取りで結ばれた個人のネットワークと見なしてモデル化すると、貧富の差は自己組織化の一種であって、金儲けの才能が全く同じであっても、必然的に生じてしまうことが説明できます。
ある個人がお金持ちになるかどうかにはいろいろな要素があるでしょうが、社会全体として富の分布がどうなるかを予測するには、驚くほど少ないパラメータで済むのです。基本的な変数としては、この2つです。
・個人の資産は投資と売買によって増減する
・資産を持っている人はより多くのお金を投資できる
ブーショとメザールは、スタート時点では人々にランダムな額の富を所有させた。それから、コンピューターで長期間にわたる経済活動を実行させると、どんな場合でも、最後はごく一部の人が富の大部分を所有するようになることが明らかになった。そればかりか、数学を使って求めた分布は、完全にパレートの法則にしたがっていた。現実の世界で得られたデータと見事に一致していたのだ。
(参考)
・asahi.com書評
・Webook書評
・MarkeZine書評
『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』
『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』