ミニレビュー
起業物語のすべてがある
初期の成功と、成功に対する疑問。
旅館にこもっての自問自答。
天啓。
義憤をバネにした成長。
挫折。あたたかい支援の言葉。
再生。寄せられる、思いもかけない支持。
成長した、高い視点から見据える未来。
とてもパーソナルな物語なのに、あらゆる要素を含んだ、起業物語の典型のようにも感じます。それだけ様々な体験をなさったということでしょう。
率直の魅力
語り口は、終始率直。例えば、学生ベンチャーだった著者が「社会起業家」という職業を発見するくだり。社会起業家になると宣言してから、何をするのかと問われてハッとします。
たしかに僕の発見は、行く先がどの方向かは示してくれていたが、どの道を行くのかまでは教えてくれてはいなかった。
そうだ、自分のテーマがなくてはいけない。(p61)
何か具体的な問題意識があったのではなく、まず社会起業家になることを決めた。こんな(本末転倒で格好悪い)こと、なかなか書けません。
そういった率直さが前面に出ているせいか、とても「入りやすい」本です。午前中の最初の休憩のときにふとこの本を手に取り、そのままソファに座り込んで読み通してしまいました。
社会起業家の雰囲気
この本にも出てくるNPO法人ETICの主催するビジネスプランコンテストで何回か応募者のプランを磨くお手伝いをさせていただいています。限られた接点ではありますが、そういった機会を通じて触れる「事業で社会を変えよう」という心意気にあふれた人たちの雰囲気を、よく伝えてくれる本です。
小さくとも、事業としてきちんと回すこと。明確な社会性を武器にプロモーションをすること。国がパクっても怒らないこと。著者のそういった体験を読んだ後では、『「社会を変える」を仕事にする』も誇張でないと思えます。そのあたりのメカニズムについて語っている部分を引用します。
僕は確信している。なぜなら、僕のような門外漢のド素人によって東京の下町で始まったモデルが、政策化され、似たような事業が全国に広がっていったのだ。自らの街を変える、それが世の中を変えることにつながっていったのだ。だとしたら「社会を変える」ことは絵空事ではないはずだ。一人ひとりが、自らの街を変えるために、アクションを起こせばいいだけなのだ。(p227)
相当なものだったはずの苦労を感じさせない、明るい文体。特大フォントを織り交ぜた、読みやすさへの配慮。二十歳代後半の著者と同年代の読者を特に揺り動かすための工夫だと推測します。既に触れた物語としての充実ぶりと併せて考えると、編集にもかなり手が掛かっているのでは。