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バックミンスター・フラーの宇宙学校


ミニレビュー

フラーはしばしば「20世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と言われます。最小の材料で最高の強度を持つといわれるジオデシックドームの設計者として知られています。没後数年して発見された、自然界に存在する最小のジオデシックドームともいうべき炭素原子60個からなるサッカーボール状の分子は、彼にちなんで「フラーレン」あるいは「バッキー・ボール」と呼ばれています

ジオデシックドームは彼の「宇宙船地球号」というコンセプトに基づく一連の活動の成果の一つです。そのコンセプトを支えているのが、彼が「シナジー」と呼んでいた概念です:

引用:

原子から、分子の動きを予測することは出来ない。ひとつの分子から、生物学的な原形質の動きを予測することはできない。原形質それ自体から、われわれの惑星のすべての生命体の、エネルギー交換をしながら再生産していくエコロジー的な連動関係を予測することはできない。
 ミクロからマクロに向かうにしたがい、より包括的になっていく宇宙のすがたは、ある段階ひとつをとりだして予測できるものではない。

他の箇所では「シナジー」を『システムの部分的な行動からは予測できないシステム全体の動き』と表現しています。いまで言う複雑系ですね。複雑系といえば、「創発」として訳されている”emergent”という単語も、彼の1965年の教育に関する論文のタイトルに既に含まれています。

この本はフラーの教育関連の講演や論文を集めたものです。上記のような視点を反映して、教育においても包括的(emergent)・統合的(integrated)であることを重視し、専門分化に強い異議を唱えています。「シナジー」という概念を頭に入れた上で、彼がどれくらい専門家の育成教育を排したがっていたか、ちょっと引いてみます(太字は引用者による):

引用:

 大学にいる人々さえ「シナジー」という概念をほとんど知らないこと、それがシステム全体の動きを意味する唯一のことばであること、さらにシナジーは、自然とその副システムの特性―そのなかのひとつ、またはいくつかの部分をとりあげたり、まとめただけでは説明のつかない―を表現するものであることを考えれば、「過度の分化は種の絶滅に導く」という生物学者の指摘のように、専門分化が進む教育システムが人類を滅亡に導いていることはあきらかに理解できる。
 専門化とは、道具や機械の代用である「頭脳をもった奴隷」が必要だった過去の将軍たちがつくりあげ体系づけた教育構造から生まれたものだ。

教育を通じて世の中のこれからに思いを巡らし、自分にできることを考えさせてくれる一冊として、このカテゴリ。