ミニレビュー
「分かりやすさ」よりも「伝達」を重視
内容が薄いという批評だけは受けないでしょう。著者は1925年生まれの元日本経済新聞社記者。文章術の本はかなり数が出ているだけに、最近の本は分かりやすさや構成など文章の特定の側面に焦点を当てた本が多いように思います。こちらはオーソドックスな作文法の本。この本自身、「分かりやすさ」よりも内容を重視しているせいか、文庫本としては「ぎっしり感」があります。
第1章 文章を書く準備
第2章 さあ、書きはじめよう
第3章 文は短く書こう
第4章 “あいまい”な表現や重複を避ける
第5章 正しい言葉を正しく使おう
第6章 読み手を迷わせない句読点の打ち方
個人的には第六章「読み手を迷わせない句読点の打ち方」、とりわけ読点(テンのほう)の打ち方を熟読。いつも一度書いてからテンを打ち直すのですが、なかなかうまく決まらずに困っていました。
例えば、
残念なことに円高を利用してこれら豊かな土地を輸入しようにも物理的にできない。(p244)
という文のどこに点を打つべきか。この本によれば
二つ以上の修飾語があるとき、一般的には長い修飾語を前に出し、長い順に並べるというルールを守れば、誤解を招かない文を書くことができる。(p243)
という係り受けのルールと、読点の機能の一つである「語の係り受けを明確にする(すぐ後の語に直接かかるのではないことを示す)」を組み合わせれば、読点を打つべき場所が分かってきます。
まず、長い修飾語を前に出すルールを適用すれば、この文章は以下のように書き換えることで読点いらずになります。
「これら豊かな土地を」「円高を利用して」輸入しようにも「残念なことに」「物理的に」できない。
修飾語の長さを示すためにカギカッコに入れましたが、カッコを外しても普通に読めます。語順を変えずに同じ意味を表現するならば、「すぐ後の語に直接かかるのではないことを示す」ためのテンを打ちます。
残念なことに、円高を利用して、これら豊かな土地を輸入しようにも物理的にできない。
上記で紹介したのは、ほんの3ページほどの内容。「ぎっしり感」が伝わったでしょうか。