- タイトル:EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方
- 著者:ダニエル ゴールマン(著)、リチャード ボヤツィス(著)、アニー マッキー(著)、土屋 京子(翻訳)
- 出版社:日本経済新聞社
- 出版日:2002-06-25
ミニレビュー
「リーダーシップ」という掴みづらいものを網羅的に整理してくれている稀有な本です。
そもそもリーダーの仕事とは何か?この本では「感情」の力に徹底的にフォーカスして定義をしています。たとえば冒頭「リーダーの一番大切な仕事」では:
引用:
優れたリーダーは、人の心を動かす。優れたリーダーは人の感情に火をつけ、最高の力を引き出す。リーダーシップを論ずるとき、戦略、ビジョン、アイデアなどがしばしば話題になるが、現実はもっと根本的なところにある。優れたリーダーシップは、感情のレベルに働きかけるものなのだ。
このような前提に立ち、「リーダーシップ」の正体を明らかにしていくのですが、フレームワーク(考え方の枠組み)が堅牢なので、とても説得力があります。
まず、リーダーシップを測るモノサシを何にするか。これは著者が提唱してきたEQをベースにして、「EQリーダーシップのコンピテンシー」としてまとめています。ちょっと長いですが引用します。本には更に詳細な情報もあります。
- 個人的コンピテンシー(自分自身に対処する能力)
- 自己認識
- 感情の自己認識 ― 自分自身の感情を読み取り、そのインパクトを認識する。直観を信じて決断する。
- 正確な自己評価 ― 自分の長所と限界を知る。
- 自信 ― 自分の価値と能力に対する健全な信頼。
- 自己管理
- 感情のコントロール ― 不穏な感情や衝動をコントロールする。
- 透明性 ― 正直と誠実。信頼できること。
- 順応性 ― 状況の変化に順応し、障害を克服できる柔軟性。
- 達成意欲 ― 自分の内なる目標基準の達成をめざしパフォーマンスを向上させる意欲。
- イニシアチブ ― 進んで行動を起こし、チャンスをつかむ。
- 楽観 ― ものごとの良い面を見る。
- 自己認識
- 社会的コンピテンシー(人間関係に対処する能力)
- 社会認識
- 共感 ― 他者の感情を感知し、他者の視点を理解し、 他者の事情に積極的関心を示す。
- 組織感覚力 ― 組織内の潮流、意思決定ネットワーク、政治力学を読み取る。
- 奉仕 ― 部下や顧客のニーズを認識し対応する。
- 人間関係の管理
- 鼓舞激励 ― 求心力のあるビジョンを掲げてモチベーションを与える。
- 影響力 ― さまざまな説得術を行使する。
- 育成力 ― フィードバックと指導を通じて他者の才能を育てる。
- 変革促進 ― 新機軸を発議し、管理し、統率する。
- 紛争処理 ― 意見の相違を解決する。
- チームワークと協調 ― 協調とチーム作り。
- 社会認識
モレ無しダブり無し、フレームワーキングのお手本のような定義です。
その上で、上のコンピテンシーの組み合わせによって発揮されるリーダーシップのスタイルを、下の6つに分類しています:
- ビジョン型リーダーシップ
- 共通の夢に向かって人々を動かす
- コーチ型リーダーシップ
- 個々人の希望を組織の目標に結びつける
- 関係重視型リーダーシップ
- 人々を互いに結びつけてハーモニーを作る
- 民主型リーダーシップ
- 提案を歓迎し、参加を通じてコミットメントを得る
- ペースセッター型リーダーシップ
- 難度が高く、やりがいのある目標の達成をめざす
- 強制型リーダーシップ
- 緊急時に明確な方向性を示すことによって恐怖を鎮める
上の4つは前向きで共鳴を起こすタイプ、下の2つは特殊な状況でのみ有用なタイプ。この6つは、理論的な枠組みというよりは実際のリーダーの観察から導かれた分類だと思いますが、漠然とイメージしていた「ありそうなリーダーのスタイル」がきれいに分類されていると感じました。
このような整った枠組みの上に豊富な事例を載せつつ、リーダーシップの伸ばし方、更にEQの高い組織の作り方について述べられています。