ミニレビュー
(注:増補改訂版が出ています)
問いの力
レヴィットの見るところでは、経済学は答えを出すための道具は素晴らしくよく揃った学問であるが、面白い質問が深刻に不足している。(はじめに)
素晴らしい分析力で通説を検証し、疑問を投げかけるプロセスが楽しい本。たとえばインセンティブが不正を招くメカニズムについての第1章。
まあ、かかっているものさえ大きければだいたい誰でもインチキはする。(p30)
ということを実地検証すべく、小学校の先生によるテストの採点結果と、相撲の取り組みのデータを統計処理し、そこにインチキを見出します。
相撲のインチキというのは、千秋楽で7勝7敗の力士に対して相手が目こぼしをしてやる(勝たせてやる)という八百長のこと。しかし、7勝7敗の力士の勝率だけ調べても、反論の余地はありますね。
数字の上でどれほどあやしかろうが、勝率が高いというだけでは八百長の証拠にはならない。8つ目の白星にはとてもたくさんのことがかかっているので、五分の力士はこの重要な一番ではいつもより必死に戦うにちがいないわけであるし。でも、もしかしたらデータには八百長の証拠が他にもあるかもしれない。(p52)
ということで更なるデータ探しをしていきます。このように、問いを立て、推論し、分析によって確かめていく一連のプロセスが物語風に書かれているところが面白い。
相関関係から原因に迫る
彼が疑う通説の多くは、結果から原因を勝手に推論していたり、見かけ上の相関関係から原因に飛びついてしまっているような分析。
一般に、相関関係から因果関係の有無を見極めることは困難です。著者は相撲の例のように異なる切り口の分析を組み合わせたり、相関関係のあるデータと無いデータを組み合わせて仮説を立ててみたりしながら、よい子育ての、あるいは犯罪率急減の、「真の原因」を探っていきます。「分析屋の冒険譚」という感じ。
個人的に興味深く読んだのは、第5章「完璧な子育てとは?」。「家に本がたくさんある」子どもは、試験の点数もよい(正の相関がある)。しかし、「ほとんど毎日親が本を読んでくれる」子どもは試験の点数も良いかというと、そうでもない(相関はない)。これだけでは混乱してしまいますが、このような相関関係を複数見出していくと、筋の通った説明は徐々に絞られていきます。16個の分析結果(試験の点数と相関関係のあるものが8つ、ないものが8つ)から彼が導いた推論はこうでした。
あなたが親として何をするかはあんまり大事じゃない――大事なのは、あなたがどんな人かなのだ。そういう意味で、あれこれ手を出す親は、お金があれば選挙に勝てると思い込んでる候補者みたいなものだ。(p223)
分析力を伸ばすために、ということでこのカテゴリに。