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選択の科学

  • タイトル:選択の科学
  • 著者:シーナ・アイエンガー(著)、櫻井 祐子(翻訳)
  • 出版社:文藝春秋
  • 出版日:2010-11-12

ミニレビュー

図書館で借りて読み始めました。しかし半分を読み終える前に数十の付せんを貼るはめになり、半分を過ぎたあたりで著者が「ジャムの実験」を実施した当人だったことを知り、買って手元に置いておこうと決意しました。

もし皆さんがわたし同様に「選択」というテーマに興味を持っているならば、多すぎる選択肢の副作用を示した「ジャムの実験」をご存じのことと思います。スーパーマーケットの試食コーナーに6種類のジャムと24種類のジャムを置いてみたところ、前者の方が売上が高かったというやつです。

もし皆さんがわたし同様に「選択」というテーマに興味を持っているならば、知っている話が多いかもしれません。それでもわたしが本書に付せんを貼ってしまった理由は、とても分かりやすくまとまっているから。各章は「講」と題されていて、連続講義という見立てになっています。もう一つの理由は、著者の魅力でしょうか。「選択」研究家を自認しておきながら、有名な「ジャムの実験」の人が「シーク教徒の家庭に生まれた」「盲目の人気女性教授」(いずれも書籍の帯からの引用)だったとは知りませんでした。しきたりの多い環境に育ち、若くして視界を奪われたという著者ならではのエピソードに強く引き込まれ、考察にうなずかされます。

どこを引用しようか、まさに多すぎる選択肢を前にして迷いましたが、やはり『クリエイティブ・チョイス』のメッセージを後押ししてくれそうな「選択は創造である」という項を選びましょう。

引用:

選択は、創造的なプロセスである。選択を通じてわたしたちは環境を、人生を、そして自分自身を築いていく。だがそのために多くの材料を、つまり多くの選択肢をやみくもに求めても、結局はそれほど役に立たない組み合わせや、必要をはるかに超えて複雑な組み合わせをいたずらに生み出すだけで終わってしまうのだ。
(略)
選択に構造化された方法を採り入れることには、試してみる価値がある。選択のプロセスに細心の注意を払い、選択そのものの幅を拡大するのではなく、それを実践する方法に注目することで、選択の力を最大限に引き出すのだ。
(略)
すでに多くの選択肢があるのに、さらに多くを要求すれば、強欲の現れと見なされる。選択に関して言えば、それは想像力の欠如の現れなのだ。これを回避するか、克服しなければ、多すぎる選択肢の問題を解決することは決してできない。

本書の原題は”The Art of Choosing”。つまり「選ぶことのアート」「選択というアート」です。多くの社会科学実験を引用したうえで、選択を「アート」としたところにセンスを感じますが、邦訳では無骨にも「選択の科学」。まるで真反対のような印象を受けます。しかし選択に関するサイエンスを期待して本書を手にとっても裏切られることはないし、読後には結局著者のメッセージは伝わっていると思うので、もしかしたら良い邦題なのかもしれません。