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うぬぼれる脳―「鏡のなかの顔」と自己意識

  • タイトル:うぬぼれる脳―「鏡のなかの顔」と自己意識 (NHKブックス)
  • 著者:キーナン,ジュリアン・ポール(著)、フォーク,ディーン(著)、ギャラップ,ジュニア,ゴードン(著)、Keenan,Julian Paul(原著)、Falk,Dean(原著)、Gallup,Gordon,Jr.(原著)、篤子, 山下(翻訳)
  • 出版社:日本放送出版協会
  • 出版日:2006-03-01

ミニレビュー

論語の「己の欲せざる所人に施すなかれ」という教えを実践するには、2つの能力が必要となります。
まず、自己を、自己と認識できること。さらに、自己を客観的にモデル化し、他者に投影できること。

「自己を、自己と認識できる」など当たり前のようですが、サルにはこれができないようです。チンパンジーはかなりできる。人間でも実はある時期まではできない。この本は脳科学者による読み物で、セルフ・アウェアネス(『自分が考えているということを認識し、その思考過程を自覚し、内省する能力』、p18)に関する知見をまとめつつ、それを司る部分が右脳に局在化していると主張しています。

個人的に興味があったのは、どの機能が脳のどこにあるかという話でなく、自己(の一部)を全く認識できないケースがあるという事実。

鏡に映った自分を自分と識別できない(鏡失認)人がいます。自分の左腕を自分の腕と認識できない(身体失認)人がいます。鏡失認の患者には、いくら説明をしても鏡像が自分だということを納得させることはできないというくだりを読んで、ちょっと愕然としました。

いずれも事故で脳に障害を負った方々のケースです。しかしもしかしたら、小さなレベルでは、「話せば分かる」が通じない領域、絶対に共感できない何かが、あなたとわたしの間にあるかもしれない。もしそれが脳科学的に証明されたら、コミュニケーションのあり方も変わってくるような気がしました。