ミニレビュー
ロシア語学科卒業の友人によると、ロシア人は小咄(短くて笑わせてくれる話)がとても好きらしい。ロシア語の通訳にして名エッセイストの米原万里さんが、小咄を収集するのは、ごく自然な流れでしょう。
笑える話には共通の構造があります。それは、話の流れから予想される終着点と、実際のオチに落差があること。著者は、この落差の作られ方を10ほどに分類して紹介します。
豊富な実例(これだけでも読書を楽しくしてくれます)に加え、なんと練習問題も付いています。著者が小咄の収集のみならず創作にも並々ならぬ意欲で臨んでいたことが窺えます。
さように楽しい本ですが、この本自体にも大きな落差があります。それは、自らが癌に罹っていることを告白している「あとがき」。何冊か並行して書かれていたでしょうから、まだ出版されるかもしれませんが、事実上の遺作のひとつになってしまいました。こんな楽しい本を綴っていたのが闘病中だったとは、なんと精神の強い方でしょうか。
あるいは、闘病中だからこそ楽しい本に仕上がったのかもしれません。先の友人の話では、ロシア人が小咄を好む理由は、厳しい気候や生活をしのぐためには笑いが必要だからとか。