よかれと思っているのに
もう7年半も前ですが、こんなリストを書き留めていました。
- あなたはすべてのことに答えを知っていると思う。しかし、他人はそれを傲慢だと見る。
- 自分のコメントが他人の役に立っているとあなたは思う。だが、他人は干渉だと見る。
- あなたは効果的に権限譲渡をしていると思う。だが、他人は責任回避をしていると見る。
- あなたはがまんして黙っていると思う。だが、他人は反応がないと見る。
- あなたは他人がみずから考えるように仕向けていると考える。だが、他人はあなたを無視していると見る。
あなたが思っていることを他人から見ると – *ListFreak
マーシャル・ゴールドスミス『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』 からの引用です。”What Got You Here Won’t Get You There”、「あなたをここにつれてきたものは、あなたをそこにつれていってくれない」という(わたしのセンスからすると)洒落た原題なのですが、こうなってしまうのはしかたないですね。
それはさておき、その時のメモには「自省にも使えるが、相手の意図を推し量るときにも有用」とありました。たしかにそうですが、実際にそのように使ったことはありませんでした。そこで、上のリストの主客を逆転させてみます。上のリストの「あなた」は善意で行動していたのでしょうから、相手も善意の人に見立ててみましょう。
- 傲慢に見える人は、答えを知っている善意の人。
- 干渉してくるように見える人は、あなたの役に立つコメントをしてくれる善意の人。
- 責任回避をしているように見える人は、効果的に権限譲渡をしている善意の人。
- 反応がないように見える人は、がまんして黙っている善意の人。
- あなたを無視しているように見える人は、あなたがみずから考えるように仕向けている善意の人。
文章完成法で他者の視点を取得する
両者を眺めてみると、自分を見る目と他人を見る目の非対称性に気づかざるをえません。『あなたはがまんして黙っていると思う。だが、他人は反応がないと見る』を読むと「そうそう」と思うのに、『反応がないように見える人は、がまんして黙っている善意の人』には「だったら言えばいいのに」と感じてしまいます。
相手の立場から状況を見ることは視点取得 (“Perspective-taking“) と呼ばれます。視点取得能力のテストや訓練の手法を検索すると、文章完成法を採用している文献がありました。
文章完成法 (Wikipedia) は、文章の一部が書かれていて、残りを埋めさせるやり方。以前に「シンクシート」という名前をつけてノートを書きました(ワークシート(Worksheet)とシンクシート(Thinksheet)」)。そこで引用したリストを再度引用します。これは、ティナ・シーリグ『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』からの引用。
- □□は、「 」に似ている。
- なぜなら、「 」だからである。
- したがって、「 」である。
斬新な解釈をつくり出す3文エクササイズ – *ListFreak
自他の視点を併記する文章完成エクササイズ
この文章完成法のテクニック、冒頭で紹介したゴールドスミスのリスト、その逆を考えた自作のリストを使って、自他の視点を比べて視点取得のエクササイズをするためのツールが作れそうです。
具体的には、次の対の文章を埋めていきます。
- ××に見える人は、実は善意で○○をしている人。
- あなたは善意で○○をしている。しかし、他人はそれを××だと見る。
たとえば誰かと話していて「反応がない」と感じたら、××に「無反応」と入れます。
- 無反応に見える人は、実は善意で○○をしている人。
- あなたは善意で○○をしている。しかし、他人はそれを無反応だと見る。
面白いことに、第一文だけでは相手の○○を想像しづらくても、第二文の○○は想像できます。批判したい気持ちを抑えて黙っていたのに、反応が薄いと言われて困ってしまった(あるいはムッとした)ような経験を容易に思い出せるからです。第二文に入る○○を思いつければ、第一文に同じものを入れて完成です。
- 無反応に見える人は、実は善意で我慢している人。
- あなたは善意で我慢をしている。しかし、他人はそれを無反応だと見る。
自分が他人に対して抱く気持ちを使って、他人が自分に抱く気持ちを想像する。単に「自分が相手の立場だったらどう感じるか」と考えるよりは具体的に想像しやすいエクササイズのように思います。