不確実さに対する戦略を4×3×3通りの組み合わせから選ぶ
経営コンサルタントのヒュー・コートニーらは、2000年の論文「不確実さのもとでの戦略」”Strategy under uncertainty” (McKinsey & Company) で、事業環境の不確実性を次の4つのレベルに分類しています。(1) (2)
- 【確実に見通せる未来】 そもそも不確実性が非常に低く、ほぼ将来が予見できる
- 【他の可能性もある未来】 将来の完全な予見はできないが、「概ねこうなるだろう」という選択肢が複数絞られる
- 【可能性の範囲が見えている未来】 選択肢に絞り込めるほどには将来を見通せないが、ある程度の確率と振り幅で事業環境の変化が予見できる
- 【まったく読めない未来】 不確実性が事業環境の多様な範囲にわたるため、将来を予見するための拠り所すらない
不確実性の4レベル(コートニー) – *ListFreak
自分が属する業界や自分のキャリアを肴に不確実性のレベルを考えてみると、最初はすべてをレベル4にしたくなりました。しかし、それは怠慢あるいは恐怖がそう思わせているのだと気づきます。実際には「まったく読めない」ということはなく、最善でこう、最悪でこうというシナリオは描けます。ということは少なくともレベル3ではあるわけです。
論文では、この4レベルで現状の不確実性を評価したうえで、戦略立案の姿勢(postures) と行動(moves) を考えよといいます。
「姿勢」として定義されているのは、形成(shaping) ―― みずから変化をつくりだす、適応(adapting) ―― 変化に適応する、留保(reserving) ―― 行動を先延ばしする、の3種類。
姿勢すなわち戦略的意図を実際に「行動」に落としこむにあたっては、大勝負(big bets) ―― リスクを顧みず最大の成果をねらって大きな資源を投入する、オプション(options) ―― 最大の成果をねらいつつ最悪のケースになっても損失を最小化できるようにする(例:小さくトライアル事業をやって様子を見る)、堅実(no-regrets) ―― 必ず成果が上がることだけをする、のやはり3種類が提案されています。
不確実さを評価し、立ち向かう基本姿勢を定め、立ち向かい方を選ぶ。フレームワーク思考に長けた人ならではのわかりやすい考え方でした。
不確実性の逆説
斜め読みしつつも “Paradoxically, “(逆説的なことに、) で始まる段落で視線が止まりました。逆説的なことに、もっとも不確実なレベル4の状況は、shaperにとってはレベル2ないし3よりローリスクハイリターンになり得るというのです。
shaper とは、かたちづくる者。みずから変化をつくり出す姿勢で戦略を立てている企業です。
『レベル4の状況は本来過渡期であり、技術・マクロ経済・規制に大きなショックが起きた後に現れることを思い出してほしい。誰も最善の戦略を知らない。その状況における shaper の役割は、業界構造のビジョンと標準を示すことだ。それが他のプレイヤーの戦略と調和し、市場をより安定的で好ましい結果へと向かわせるのだ。』
「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイの言葉どおりですね。
米国では今後10~20年間の間に半分の雇用がコンピュータに代替される、という予測が話題になりました。個人のキャリア設計も、高まる不確実性と付き合っていかねばなりません。未来を予測して適応する努力と同時に、どこかの時点で自分の仕事を「みずからつくり出す」機会を楽しみに待つ準備も、しておいたほうがよさそうです。
(1) 2009年に「不確実性時代の戦略思考 【新訳】」 としてDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー誌に訳出されています。