傾聴、探索、分析、行動
AQ(逆境指数)の提唱者であるポール・ストルツ氏は、困難な問題を解決するステップをLEAD(導く)とまとめています(1)。
- Listen(傾聴) 置かれた状況を冷静に考える
- Explore(探索) これまでの経緯からどこに問題があったかを探る
- Analyze(分析) なぜ起こったか、原因を分析する
- Do(行動) 最後に、できることを実行する
内容は、問題解決の標準的な手順です。しかし、各ステップで取るべき行動を象徴するよい言葉が選ばれています。LEADというわかりやすい頭字語と相まって、思い出しやすさと使いやすさの面で優れたリストだと感じました。
とりわけ、最初の Listen が効いています。
動転した状況で反射的にDoに飛びつかないために、まず、耳を澄ます。
Listen, learn … then lead
アメリカ軍で特殊部隊を率いた軍人のスタンリー・マクリスタル大将 (Wikipedia) の、「聞き、学び、そして導く」 (TED Talk) という印象的なスピーチを聞きました。
いわゆる「軍隊式」リーダーシップの信奉者だった氏が21世紀に入って命を預かるようになった部下は、自分の子供よりも若いデジタル世代。戦いのスタイルも変わり、使えるコミュニケーション手段は彼らが得意なデジタルツール。
そんな状況下で部下との信頼関係を築いていくという挑戦を経て氏が到達した結論が、”Listen, Learn, then Lead”。「部下に聞き、学び、そのうえで導く」リーダーシップでした。
Listening is Loving
聴くことは、愛すること。なんという力強さと真実味。
これは松本 幸夫 『いい関係が長~くつづく「交渉」の進め方・考え方』 という本で拾いました。この言葉を検索してみると『しあわせはどこにある』という2014年のイギリス映画がよくヒットします。主人公が書き留める言葉の一つのようです。さっそく、観る映画リストに加えました。
さらなる引用元があるのかどうかまでは確認しきれませんでしたが、「勇気の3類型」というノートで紹介したパウル・ティリッヒの、こんな言葉も見つけました。
The first duty of love is to listen.
愛の最初の務めは聴くことである、と訳しておきます。
問題解決も、リーダーシップも、愛も、聴くことから始まる。意志決定も自己認識、つまり自分の声を聴くことから始まるといっていいでしょう。
すべての言動は何らかの問いに対する答えです。たとえば「今日の昼食はサンドイッチにしよう」という行動は、「今日の昼食はどうするか?」という問いへの答えです。人はその問いを、聴くことによって手に入れています。たとえば楽しいことに夢中になって昼食を抜かしてしまったとしたら、それは空腹に伴って発せられていたはずの情動の声を聴き逃したわけです。
そう考えると、知情意の始点に「聴く」という行為が、暗黙のうちにせよ、横たわっているわけです。そのステップを微細に意識してみることで、よりよい意志決定のあり方が見えてくるように思います。
(以下はおまけです)
List-en
Listen=聴くことの大事さ、いっそ尊さが感じられる言葉を3つ集めてみました。
なぜ Listen に惹かれるのだろうと考えるうち、ふと List という字が含まれていることに気づきました。 *ListFreak というサイトの運営者でもあるわたしとしては見過ごせない暗合です。
調べてみると、リスト(list)の語源は古フランス語のliste、聴く(listen)の語源は古英語のhlystan (2) (3)。直接はつながっていないようです。しかし古くは、List は Listen の意味で使われていました (4) 。
List, list, O, list!
If thou didst ever thy dear father love.
聴け、聴け、おお、聴け!
お前が父を敬愛してやまぬなら。
―― シェイクスピア『ハムレット』
(1) 渋谷 昌三 「困難が辛くない練習」(プレジデントオンライン)。渋谷氏はストルツ氏の著作の翻訳者
(2) “list (Online Etymology Dictionary)
(3)「第283号 動詞 listen」(メール・マガジン『中学英単語』)
(4) list (to listen) (Winged Words)