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コンセプトノート

650. BUCCHAKERU(率直さの力)

ぶっちゃけパワー

イギリスのEU離脱を主導したイギリス独立党。暴言で知られるフィリピンのドゥテルテ大統領。やはり暴言王と呼ばれながらもアメリカの大統領に選ばれたドナルド・トランプ氏。2016年に物議をかもしつつ国を動かした運動や人に共通するのは、あけすけなまでの本音の吐露、つまり率直さであるように思います。

率直さは美徳です。ただそれは、裏表のない言動から感じられる善良さや、奔放な言動を透かして見える純粋さが尊敬に値するからであって、むき出しの悪意や偏狭さを率直に示したところで人は動かない、と考えていました。

しかし先に挙げたようなケースに触れ、また自分の経験を加味して考えてみると、善悪とは関係ない、率直さそれ自身の力を思い知らされるような気がします。理に適った主張を洗練された態度で述べ立ててても、率直さに欠けたり裏表があったりすると思われてしまうと、率直な人にはかなわない。たとえその主張が整合性を欠き、その態度が子供じみたものであっても。

政治的な正しさ (Political Correctness, PC) に欠けていようが、心の奥底にある本音を率直にいう。日本語には「ぶっちゃける」という便利な言葉がありますが、英語でぴったりくる言葉がなかなか思いつきません。もしかしたら “BUCCHAKERU” が世界で流行したりしないだろうか、などと妄想してしまいました。

率直さを補完するもの

とはいえ、やはりなんでもぶっちゃければよいというものではないはず。冒頭の例は「ぶっちゃけ」が歓迎されるような息苦しい素地があったからこそ機能した、特殊な例とみなすべきでしょう。

では、どういう率直さが望ましいのか。そのヒントを『書経』に見つけました。

  • (一)寛にして栗(寛大だが、しまりがある)
  • (二)柔にして立(柔和だが、事が処理できる)
  • (三)愿にして恭(まじめだが、ていねいで、つっけんどんでない)
  • (四)乱にして敬(事を治める能力があるが、慎み深い)
  • (五)擾にして毅(おとなしいが、内が強い)
  • (六)直にして温(正直・率直だが、温和)
  • (七)簡にして廉(大まかだが、しっかりしている)
  • (八)剛にして塞(剛健だが、内も充実)
  • (九)彊にして義(強勇(ごうゆう)だが、義(ただ)しい)

九徳*ListFreak

このリストは、古典的な名句の多くがそうであるように、対照的な概念を並立させてバランスを取っています。九徳はそのペアが9つもある力作。

いま注目したいのは「直にして温(正直・率直だが、温和)」。

率直さには強い力があるからこそ、温かみを添える。温かみを添えようと思うと、相手がどう感じるかを想像する余地が生まれる。率直さの副作用を考慮した、絶妙な抑えが配されています。