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コンセプトノート

578. Allies(味方になってくれる誰か)

「月曜の朝」問題

『イノベーションは日々の仕事のなかに――価値ある変化のしかけ方』という書籍のエピローグで、著者のパディ・ミラーらは「イノベーションにとっての最大の危険」について言及しています。

この危険をわれわれは、「月曜の朝」問題と呼んでいる。

「月曜の朝」問題は、著者の経験から生まれた言葉です。提供したイノベーションのコースはおおいに盛り上がった。最終日の金曜、参加者は自分のプランを手にして意気揚々と会場を後にした。しかしフォローしてみると、プランに着手しなかった人がおおぜいいた……という経験です。

参加者個人としては、誰にでもある経験でしょう。本を読んで「やってみよう」と思ったことも、新年の決意も、半分くらいは、いや7割……ことによったら9割くらいは、やらずに終わってしまいます。

わたしにとっては、個人としてはもちろん、トレーニングの設計を仕事としている身としても、ぜひとも乗り越えたい問題です。過去のノートでは『歯を1本だけ磨く』「変化は一口サイズから (1) (2)」あたりで、この問題について考え、試行してきました。

「仲間」が行動の鍵

本書において著者らが提案するのは、仲間を1人引き入れること。そのためのシンプルなステップを作ってくれています:

  1. シンプルなプランを今すぐ立てる。5〜10分かけて、最初のプロセスを決める。
  2. パートナーを決める。会いやすく互いに行動を促し合える、日常的に接している人物を選ぶ。
  3. すぐに最初のミーティングを設定する。20分以内に連絡を取り、会う約束を取りつける。

決意を実行に移すためのシンプルな3ステップ*ListFreak

このリストを見て、思い出す情景があります。感情マネジメント力を伸ばすプログラムの最後に、具体的な行動を計画する過程で「誰に進捗をチェックしてもらうか」を決めてもらいます。ここに名前を書き込むのを嫌がる人がときどきいるのです。仕事を独りでやっているとか、適当な人が見当たらないとか、さまざまな理由を挙げて自分でチェックすることにしたがります。個人的には、その気持ちはわかります。他人の目こそが人を行動にいたらしめる効果的なトリガーだとわかっているからこそ、ためらってしまう気持ちが生じます。

そんなときは、少々意地悪ですが、場に「どなたに手伝ってもらったらよいですか?」と聞いてみます。参加者同士が知り合いの場合は、誰かしらチェッカーが見つかります。それでも見つからないときは諦めていたのですが、本書(のエピローグ)を読んで、もしチェッカーが見つからなければ仮の仲間としてトレーナーにメールで報告しよう、くらい強く訴えてもよいように思いました。

窮地に必ず現れる味方

「味方になってくれる誰か」は、人の成長そのものの鍵でもあります。スタンフォード大学で創造性トレーニングを開発したマイケル・レイは、著書『ハイエスト・ゴール』で次のように述べています。

ジョゼフ・キャンベルをはじめとする神話学者たちによれば、人生のあらゆる経験は英雄の旅とみなせるという。(略)英雄の旅を理解し、それが自分の人生でも展開されることに気づけば、最高のゴールへ向かう自分自身の道にしたがうのが楽になる。

キャンベルの「英雄の旅」にはいくつかバリエーションがあるのですが、レイ版はこんな感じです。図解とともに引用します。

  1. Innocence(純粋無垢)
  2. The Call(呼びかけ)
  3. Initiation(試練への直面)
  4. Allies(味方の助け)
  5. Breakthrough(飛躍)
  6. Celebration(祝い)

英雄の旅の6ステップ*ListFreak

                              Celebration 
                            ┌─────→
                Breakthrough☆            
                            │            
Innocence   The Call        │            
─────★                │            
          │          Allies│            
          │          ┌──┘            
          │Initiation│                  
          └──┐    │                  
                │←→│                  
                └??┘                  

かんたんに追っておきます。ふつうに暮らしていた(Innocence)ある日、あるきっかけ(The Call)で「旅」が始まります。何かに巻き込まれたのかもしれませんし、一念発起したのかもしれません。変化に伴って避けがたく生じる混乱が試練(Initiation)として襲いかかってきます。図の底のほうの「?」は、どん底でもがいている様子。そこから味方(Allies)の助けを得て試練を乗り越え(Breakthrough)、振り返って成長を実感します(Celebration)。

興味深いのは、どん底から浮上するきっかけです。さまざまな「英雄の旅」のバリエーション(興味のある人は”Monomyth“(Wikipedia)を参照)を見ると、「味方の助け」は欠くべからざるほど重要なステップというわけではありません。

創造性を高めるのは、本質的に個人的な旅です。でも、あるいはだからこそ、Ally(味方、仲間、盟友)になってくれる誰かが必要なのだというレイの洞察が、この選択にあるように思います。

※AllyはAlliesの単数形