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コンセプトノート

609. 関心、共感、先んじた信頼

この人は、温かみがあるか?能力があるか?

『研究結果によれば、人が誰かを信頼できるかどうか判断するには、その人の言葉や行動を次のような問いによって分析するのだそうです。』

社会心理学者ハイディ・グラント・ハルヴァ―ソン『だれもわかってくれない:あなたはなぜ誤解されるのか』(早川書房、2015年)からの引用です。ここでいう「判断」とは、熟慮のうえの判断ではなく、初対面の相手に対して第一印象を形成する際の無意識な判断です。経験的にも納得できる2つの問いが示されていました:

  1. 相手が自分に対して好意的な意図を持っているかどうか。つまり自分にとって敵なのか味方なのか。
  2. 相手に自分の意図することを実行するだけの能力があるかどうか。

わたしが興味を引かれたのは1.でした。初対面の相手から味方だと思われることは、仕事を円滑に進めるうえで重要な要素でしょう。わたしの仕事でいえば、たとえば講師として1日限りのおつきあいとなる参加者の皆さんに好意的な意図が伝わらなければ、成功はおぼつかないでしょう。

相手が自分の味方かどうか、人はどう識別するか。本書によれば「人間的な温かみ」を感じとろうとするそうです。

関心、共感、先んじた信頼

では「温かみ」を伝えるにはどうすればよいのか。本書では次の3つの行動を紹介しています。

  1. 相手に関心を払う
  2. 共感を示す
  3. こちらが先に相手を信頼する

(3の信用を信頼に置き換えて引用。訳書ではtrustに信頼と信用が使われています)

3の、こちらが先に相手を信頼するためには、どうするか。本書の定義によれば信頼は温かみと能力によって判断されるわけですから、相手の温かみと能力を感じ取る力を高めねばなりません。相手の温かみと能力を感じ取る力を高めるには、どうするか。1と2、つまり関心と共感のスキルを高めることでしょう。

こちらが先に相手を信頼するためにできることが、もう一つあります。それは根拠なく信頼してみること。交渉のような利害の衝突がある状況ではそうはいかないでしょうが、商談の最初だったり、講義の最初であれば、信頼が裏切られたからといって大した害はありません。

講義でも温かみが見られない(目を合わせない、うなずかない、笑わない)人は、必ずといってよほどいらっしゃいます。先日もそういう方がいらして、すこし不安な思いで講義を終えました。ところが講義後、帰り際に寄ってきてくれて、わたしの経験談についての共感を語ってくれたのです。1対1で話すその方からは、たしかな温かみを感じました。わたしが先にもう一段踏み込んで関心・共感・先んじた信頼を行動に移しておけば、もっとよい場が創れたかもしれません。