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コンセプトノート

655. 都合のよい不一致

リーダーシップにおける「不一致」

ジェフリー・フェファー(スタンフォード大学ビジネススクール教授)の著書『悪いヤツほど出世する』(日本経済新聞出版社、2016年)のテーマはリーダーシップです。アンチ・リーダーシップと言うべきかもしれません。経営学の中でサイエンスから最も遠いのはリーダーシップ論だとしばしば言われます。本書はそういったリーダーシップの“当てにならなさ加減”に光を当てた本です。

最終章に、こんな記述がありました。

『リーダーシップをめぐる問題点は、根本的には次のような不一致の問題だと言うことができる。』

  • リーダーの発言と行動の不一致
  • リーダーの行動と結果の不一致
  • 理想の普遍的リーダー像と現実のリーダーとの不一致
  • リーダーシップの多元的な性格と人々が求める単純化されたリーダー像との不一致
  • リーダーシップの自己評価(ハッピーシート)と現実のデータ(職場環境やキャリアに関する調査結県)との不一致
  • 多くの人が求めるもの(よいニュース、サクセスストーリー、高揚感)と必要なもの(真実)との不一致
  • 組織や職場の改善に必要な行動とその実行との不一致

都合のよい不一致

不一致が見つかったのなら一致させればいいわけです。しかし著者はそれが容易でない理由として『不一致は多くの人の利益にかなっている』という鋭い考察を披露しています。

たとえば、最善を尽くしても結果はわからないものだという考え。実際、未来の帰結は予測できません。とはいえ、まったく結果を問わなくてよいとなると、思いつきのリーダーシップ行動でよいことになります。責任を負いたくないリーダーにとっては「行動と結果の不一致」があったほうが楽だといえます。

さらに悪いのは、多くの人が現実と自分たちが信じたがっていることとの乖離に気づいており、それでもなお聞きたいことだけに耳を傾けていることだ。

「都合の悪い真実」という有名なプレゼンテーションがありますが、こちらはいわば「都合のよい不一致」というわけです。

解かれるべきでない問題

不一致の解消とは問題の解決にほかなりません。一般に問題解決の方法論では、問題はあるべき姿と現状とのギャップとして定義されるからです。でも、上述の事情を踏まえると「現状に不満を表明し、あるべき姿も明確だけれど、実は解決したくない問題」がけっこう存在するということです。

たとえば「経営者がビジョンを示さない」と言うマネジャーは、能力不足で自分の組織をうまく運営できていないという現実から目を逸らすために、問題を経営者に転嫁しているのかもしれません。この場合、経営者がビジョンを示してしまっては困るわけです。逃げ道がふさがれるので。

考えるにつれ、これは時間をかけて解くべき「問題」のように思えてきました。どうすれば「都合のよい不一致」を見つけ出し、真実と向き合う勇気を持てるのか。

フェファーは、基本的にはどのような処方箋も与えていません。ただ、がんばって真実と向き合い続けろと書いてあるのみです。感動的なエピソードとともに語られているので、実際にはそれほど味気ない表現ではないものの、メッセージはそれだけです。

それでも少し手がかりになりそうな記述を見つけましたので、見出しをリスト化して紹介しておきます。

  • 「こうあるべきだ」(規範)と「こうである」(事実)を混同しない
  • 他人の言葉ではなく行動を見る
  • ときには悪いこともしなければならない、と知る
  • 普遍的なアドバイスを求めない
  • 「白か黒か」で考えない
  • 許せども忘れず

組織の現実と向き合うための、6つのヒント*ListFreak