限界的練習、あるいは究極の鍛錬
フロリダ州立大学のアンダース・エリクソン教授が、サイエンスライターのロバート・プールと書いた『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋、2016年)を読みました。エリクソン教授は卓越した業績を上げた人(ゴルフでいえばタイガー・ウッズ)の練習方法を研究し、”deliberate practice”(限界的練習)理論にまとめた人です。
その中身が気になるところですが、書籍の中では理論の概要が要約されていません。代わりに訳書の出版社が「10の鉄則」を作っています。
- 鉄則1 : 自分の能力を少しだけ超える負荷をかけつづける
- 鉄則2 : 「これで十分」の範囲にとどまっていると、一度身につけたスキルは落ちていく
- 鉄則3 : グループではなく、一人で没頭する時間を確保する
- 鉄則4 : 自分の弱点を特定し、それを克服するための課題を徹底的に繰り返す
- 鉄則5 : 練習を「楽しい」と感じていては、トッププレーヤーにはなれない
- 鉄則6 : これ以上集中できないと思った時点で練習や勉強はうちきる
- 鉄則7 : 上達が頭打ちになったときは、取り組むメニューを少しだけ変えてみる
- 鉄則8 : 即座にフィードバックを得ることで、学習の速度は劇的に上がる
- 鉄則9 : オンの時間とオフの時間をはっきり分け、一日のスケジュールを組む
- 鉄則10 : どんな能力も生まれつきの才能ではなく、学習の質と量で決まる
教授の研究は、2010年に出版された、ジョフ・コルヴァン 『究極の鍛錬』(サンマーク出版)でも詳しく紹介されていました。邦題としてフィーチャーされた「究極の鍛錬」という言葉自身が “deliberate practice” の和訳だったと思います(原題は “Talent is overrated”、つまり「才能は過大評価されている」)。
こちらにまとめられたリストの方がわかりやすく本質的には同じなので、併せて紹介します。
- 実績向上のために特別に考案されている
- 何度も繰り返すことができる
- 結果へのフィードバックが継続的にある
- 精神的にはとてもつらい(集中と努力が必要なので)
- あまりおもしろくない(不得手なことに取り組むので)
「究極の鍛錬」の特徴 – *ListFreak
独習の3F
個人的に興味をひかれたのは、『先生がいなくても効果的に技能を高めるには、三つの「F」を心がけるといい。』というくだり。3つのFとは:
- Focus : 技能を繰り返し練習できる構成要素に分解する
- Feedback : きちんと分析し、弱みを見つける
- Fix it : それを直す方法を考える
独習の3F – *ListFreak
当たり前というか、近道はないのだなと思い知らされるリストです。挙げられていた事例の中に、ベンジャミン・フランクリンが文章力を磨くために考案した有名なトレーニングのいくつかがありました。まとめると次のような方法です。
まず、手本となる文章を用意し、内容を思い出すのに最低限必要な分をメモします。数日後、つまり元の文章の具体的な言葉づかいを忘れたころ、メモを参考に文章を書きます。それを元の文章と照らし合わせて、自分の文章を修正します。
フランクリンのこのトレーニング考案スキルこそ、身につけたいものです。
われわれは誰もが独習者の側面を持っており、仕事ではそれが徐々に濃くなっていきます。組織の中で職位が高くなるにつれて、教えを乞える人は少なくなっていきます。一方では事業上の決断など独りで行うべき仕事が増えていきます。
頼れる先生がいないとすると、成長を図るためには独習のサイクルを回していくことが不可欠。Focus, Feedback, Fix it が組み込まれたよいトレーニングメニューを考案してみたくなりました。