深く考えるための3ステップ・システム
カル・ニューポート 『大事なことに集中する―――気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』(ダイヤモンド社、2016年)を読みました。著者は長く深い集中をともなった知的作業をディープ・ワークと名づけ、多くの利点を挙げています。浅い情報(と思考)が氾濫する世の中においてディープ・ワークのスキルが今後ますます必要とされると説く著者は、第2部 「『ディープ・ワーク』を実践するために」で18もの戦略を紹介しています。
その9番めは「生産的に瞑想する」。注意散漫と堂々巡りから逃れ、深く考える方法について、自らの経験に基づいて3ステップのシステムで考えていくことを勧めています。本文をすこし編集してリスト化したものをお目にかけます。
- 問題解決のための関連する“未確定要素”を注意深く精査し、その価値をワーキングメモリーに保存する
- 未確定要素が特定できたら、その要素を用いて答えるべき“次段階の問い”を明らかにする
- 出した答えを精査して、得たものを“確定する”
深く考えるための3段階のシステム – *ListFreak
3ステップ解題
イメージはなんとなくつかめますが、「未確定要素」の「価値」とは何なのか、よくわからなかったので原著を確認してみました。
“未確定要素”は variables(変数)、価値は value でした。変数は値(value)の容れ物なので、わたしにとっては次のように考えると理解しやすくなります(これ以外にも原文から訳し直しています)。
- 問題を解決するための関連する“変数”を慎重に検討し、それらの値を頭に叩き込む
- それらの変数を用いて答えるべき“次段階の問い”を定義する
- 出した答えを精査して、得たものを“統合”する
たとえば「売上が落ち込んでいる」という問題であれば、まず問題に関連しているであろう変数をいくつか特定します。たとえば、現場に立っている感覚から「客数」と「商品A」という2つの変数が売上の落ち込みに影響を及ぼしていると感じているとします。それらの変数の値は、正確にはわからないとしても、感覚的に1割、2割と仮置きできるでしょう。とすると、リストはさらに次のように言い換えられると思います。
- 問題解決のための“論点”と、それに対する初期仮説を頭に叩き込む
- その仮説を検証するための“次段階の問い”を定義する
- 検証の結果を精査して、解決に向けて“統合”する
そう、仮説検証サイクルを回すのだと捉えると、この3ステップがよく理解できます。
すると“次段階の問い”とは、たとえば「客数は実際にどれほど落ち込んでいるのか?」「商品Aの売上は実際にどれほど落ち込んでいるのか?」となるでしょう。あるいはデータがすぐには得られないとわかっているならば「商品Aの落ち込みが激しいと仮定して、その原因は何か?」かもしれません。
第3ステップで、得たものを統合する。たとえば「客数よりも商品Aの落ち込みが売上の落ち込みに影響を及ぼしている」といったように、いったん結論づけるということでしょう。
この3ステップを繰り返します。限られた時間で“次段階の問い”に答えが出るとは限りませんが、それでもいったん結論づけ、思考を前に進めていく。訳文に戻ると、未確定要素を減らしていく。そういうねらいだと理解しました。
思考の堂々巡りを脱する
深く考えるというと、脳に多くの変数を取り込んで沈思黙考、ひらめきとともに浮かび上がる、といったイメージを持ちがちです。それも深く考える道ではありますが、本書では上記のように足場を固めながら掘り下げていく堅実なアプローチを紹介しています。
なぜか。一気に問題を掘り下げるのはエネルギーを使うので、脳はそれを嫌い、既知の事柄を堂々巡りすることでそれを避けようとする、というのが著者の説です。
考えてみると、わたしが毎週半日以上を費やしてこのノートを書き続けているのも、「いったん結論づけ」ようという営みなのかもしれません。力不足で考察が深まらないまま投稿しなければならない回も多いですし、ここまでエネルギーを費やしても堂々巡りに陥ってしまうこともあります。とはいえ、この繰り返しがなければ、さらに手前のところで堂々巡りをしていただろうと思うのです。