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コンセプトノート

323. 気持ちを表す語彙を増やす

感情は「感染する」ことが確かめられています。『ビジネスEQ―感情コンピテンスを仕事に生かす』では、こんな実験が紹介されていました。

実験者は学生を集めてミーティングを開きます。この中の一人が実はさくらで、意図的に感情的な振る舞いをします。すると場の雰囲気も、そのさくらの演じる感情に合わせて変化したことが観察されました。さらには、成果も左右されることが測られました。明るい感情で議論をしたグループのほうが、暗くイライラしたグループよりも効果的な議論ができたそうです(詳細はp278をご参照ください)。

われわれの経験に照らせば、この実験結果は意外ではありません。

 われわれは、あたかも社会的ウイルスのように、お互いに感情を交換し合うことをつねに行っている。この感情の交換は、すべての人間の相互作用の一部として、目に見えない対人関係上の経済性、あるいは利益を生む。しかしこれがあまりに微妙なので、われわれはこれを意識しないだけなのだ。(p275)

実際に相対していれば、言葉だけでなく表情や身振りなど感じ取れるすべての情報を使って感情が交換されます。しかし電話であれば言葉と声のトーンだけが、メールであれば言葉だけが感情を伝えるチャネルになります(実際には、メールを出す時間帯や返信までのタイミングなど、言外の感情を推し量る手がかりがないわけではありません)。

というわけで、ビジネスであっても、言葉で感情を伝えることが必要なシーンも少なくありません。ところが、これは慣れないと難しいですね。今日はそのあたりに効きそうな本からエクササイズを探してみました。

一つめは『EQ こころの鍛え方 行動を変え、成果を生み出す66の法則』。著者は「明るい言葉」を100個考えてみたり、それを「1日5個以上使い」「5人以上の人と話す」といったエクササイズを勧めています。100もとても思いつかない……というわたしのような読者が多いことを予想してか、例がたくさん載っています。なるほど「パンパカパーン」なんかでもいいわけですね。

「明るい言葉」の他にも「誉める言葉」「積極的な言葉」「励ます言葉」「熱血語」などなどのストックを持ち、意識的に使っていくことで、自分や周囲に前向けな感情を感染させていくことができるといいます。

二つめは『誰とでも15分以上 会話がとぎれない!話し方66のルール』。話し方教室を主宰している著者は、たとえばこんな問いかけをするそうです。

「さあ、一歳になったばかりの赤ちゃんが、はじめて立ち上がった瞬間を見たパパはどんな気持ち?」(p37)

他人の気持ちを推測し、さらに言葉にするということですね。もちろん「嬉しい」気持ちでしょうが、著者はさらに、もし「嬉しい」の千倍の気持ちだったらどう言うかを問いかけるそうです。

これは難しいですね……。即興で挑戦してみると、
「失神しそうになった!」「なぜか泣けてきた!」「一緒に立ち上がっちゃったよ!」
くらいを、なんとか思いつきました。

仕事においては、情緒的に安定していることも大事なことですから、ここまで激しい感情表現をすることはすくないでしょう。しかし、適度に抑制されつつも感情を込めたメッセージをいただけば心に残りますし、その方とまた仕事をしたい、と思います。

次に引用するのは、先週ある会社向けに提供した研修の受講者からのメールの一部です。純粋に内容の良し悪しだけをおっしゃってくださる方もいれば、この方のように、自分が感じたことを添えてくださる方もいらっしゃいます。心の底でどうお感じになっていたかは知るよしもありませんが、このように言っていただければ、やはり励みになりますし、次回はさらによいサービスを提供したいと思ってしまいます。

 いつも自然体で受講者を受け容れてくださる姿勢に
 好感が持てました。
 お陰さまで心地よい雰囲気の中で、最後まで集中して
 受講することができました。

どういう言葉を選ぶかは、その人次第です。無理に「!」「♪」を連発しても、書いた本人が落ち着かないかもしれません。この方の場合は、会話に「!」「♪」がたくさん入っている華やかな方でしたので、穏やかなトーンのメールをいただいたことが、逆に心に残りました。このような、相手のやる気を引き出す感情表現の妙を、わたしも目指していきたいものです。