影響力の法則=互恵性の原則+価値交換
『影響力の法則』という本を読みました。原題 “Influence Without Authority” を直訳すると『権限の伴わない影響(力)』で、本文もこのように始まっています。
この本は、人を動かし仕事をやり遂げる力、つまり影響力についての本である。
私たちは、権限がおよばない他部門や他チームの人々を動かす必要に迫られている。上司やさらに上位者をも動かす必要がある。
非常に曖昧なテーマを、少数の前提からぐいぐいと演繹していく様がなかなか痛快な本でした。読書メモ代わりにまとめておきたいと思います。
まずは前提から。ほぼ唯一の前提が「レシプロシティ(互恵性)の原則」です。
「レシプロシティ(互恵性)」は、ほとんどあらゆる文化に共通する社会通念のひとつである。「よい行動には見返りが、悪い行動には報復がもどってくる」というものである。人の行動についてのこの通念は、文明の近代化度合いにかかわらず存在しており、当然のことながら、職場にも持ち込まれている。
もう一つ、レシプロシティの原則に依拠して「価値の交換(が可能である)」という前提を置きます。
「影響力の法則」は、価値の交換と「レシプロシティの原則」を土台としてつくられている。価値の交換とは、自分が得たいものを相手が欲しがるものとトレードすることだ。人を動かす力は、相手が欲しいものをこちらが持っていることで発揮できると考えるのである。
基本的にはこれがすべてです。
影響力の法則:Q&A
なんとなく理想主義的かつ味気ないモデルに思えます。自分の理解を確かめる意味で、Q&A的に影響力の法則を検証してみましょう:
「相手に提供できる価値を持っていない場合は?」
本書では価値ある何かをカレンシー(通貨)と呼び、便宜的に5種類にカテゴリー分けたうえで詳細な例を挙げています。
- 気持ちの高揚や意欲を喚起するカレンシー(ビジョン、卓越性、正しさなど)
- 仕事そのものに役立つカレンシー(リソース、成長や学習の支援、対応、情報など)
- 立場に関するカレンシー(承認、評判、所属意識、接点など)
- 人間関係に関するカレンシー(理解、需要/一体感、私的な支援など)
- 個人的なカレンシー(感謝、当事者意識、自己意識、安楽さなど)
たとえば何かを教えてもらうのは「情報」というカレンシーを受け取ることですが、相手は「感謝」のみならず、自分の「重要性」や「有能性」といったカレンシーを受け取ると考えます。
このように幅広いカレンシーが使えるという理解のもと、本書では『あなたには、自分で思っているよりも遙かに人を動かす力がある。』といった表現で、相手と自分をよく知り、カレンシーを発掘することを勧めています。
「与えてもお返ししてくれるとは限らないし、こちらの望んでいるものを与えてくれるとも限らないのでは?」
レシプロシティの原則に従えば、こちらの言動が相手にとってよい、あるいは悪いものであれば、必ず何かが返ってきます。よい悪いは相手の主観なので、返ってこないのであれば、相手にとっては意味の無い言動だったということになります。
返ってくるものについては、基本的には相手がこちらに与えたいものを与えてくれるわけですから、こちらの望みを正確に理解してもらわねばなりません。実はここがなかなか難しいところで、人は自分の望みを明確に理解しているわけではないという指摘も、本書では何回かなされていました。
「人は『意気に感じてやってやろう』といった、義理人情・浪花節的な理由で動くこともあるのでは?」
われわれがふだん曖昧に捉えているそういった理由も、わたしの理解では本書においてカレンシーと解釈できます。相手が人情で助けてくれる場合、相手はその行動によって利他的なふるまいをしたことによる満足というカレンシーを受け取っています。
(本書はビジネスの中での影響力の発揮という文脈で議論が展開されているので、純粋に利他的な行為、たとえば自分の死と引き換えに他人を助けるような行為において、その人はカレンシーを受け取るのかといった哲学的な領域にまでは触れていません。)
影響力を発揮するステップ
本書は、互恵性というシンプルな原則を突き詰めて考え、どのようにして「互」いの「恵」みを見出していくのかをていねいに言語化しています。
人を動かす、影響力を行使するというと、表層的な心理テクニックや情緒論に堕しかねないテーマですが、どこまでもフェアな等価交換を原則とする、互いを深く理解する、関係性に配慮するなど、クリーンな方法論に練り上げたという印象を持ちました。
著者らは、一連のステップを次のようにまとめています。
- 【すべての人は味方になり得ると考える】 「この人は味方になり得る」と自分に言い聞かせる
- 【目標と優先順位を明確にする】 何をどのくらい得たいのかを明確にする
- 【相手の世界を理解する】 相手の目標、ニーズ、懸念などの状況を把握する
- 【適切なカレンシーを特定する】 相手と自分のそれぞれが価値を感じる自分のリソースを見つける
- 【関係に配慮する】 相手との関係性や相手のやり方に配慮して働きかける
- 【目的を見失わない】 ギブ・アンド・テイクを通じて影響を与える
影響力の法則 コーエン&ブラッドフォードモデル – *ListFreak