ダイアローグの4行動
ともに慶応大学で教鞭を執る、前野 隆司氏と保井 俊之氏の共著『無意識と「対話」する方法 – あなたと世界の難問を解決に導く「ダイアローグ」のすごい力』(ワニブックス、2017年)を読みました。
ダイアローグといえばこの人、という文脈で保井氏が真っ先に挙げた名前が、ウィリアム・アイザックス。「ダイアローグの基本構造をまとめた人物」とのこと。註には、MIT組織学習センターの共同創設者とあります。多くの著書があると紹介されていますが、和訳されているものはないようです。英語版のWikipediaにもエントリーがないところを見ると、知る人ぞ知る、というところでしょうか。
「ダイアローグの基本構造」の一つを、氏は次のように紹介しています。
アイザックスはこれまでの対話のあり方を変え、新しいダイアローグの場をもたらすために必要な4つの行動を構造化して提示しました。それが聞く (listening)、大事にする (respecting)、保留する (suspending)、出す (voicing) です。
原著にあたって、意訳した解説を添えておきます。
- 【聞く(listening)】 反撃したい気持ちや押し付けたい気持ちを排する。「どんな感じか?」
- 【尊重する(respecting)】 他者の見解も正当なこと、それを完全には理解できないことをわきまえる。「どう適合するか?」
- 【保留する(suspending)】 前提・判断・確信を保留する。「どううまくいくか?」
- 【声にする(voicing)】 他の権威に頼らず、自らが信じる真実を話す。「何が話されるべきか?」
ダイアローグの4行動 – *ListFreak
尊重、そして保留
この4行動を見て即座に浮かんできたのは、奇妙なことに、ダイアローグの対極にあるとみなされがちな「論理的思考」でした。
相手の論理をよく理解するために必要なのは、相手が依っている根拠、とりわけ相手がそれに依っていると自覚もしていないような根拠、いわゆる「隠れた前提」です。では、その隠れた前提をどうやって見つけるか。
たとえばあなたが部長で、部下の課長から、失敗をした課員の処遇について承認を求められたとします。もちろん理由は書いてあるのですが、失敗の程度に対してどうも罰が重すぎると感じています。さてどうするか。
方法はいろいろありますが、わたしが好んで用いるのはこんなアプローチです。
まず、課長の提案が完全に正しいと仮定する。そのうえで、どれだけの根拠があればその提案に納得できるかを考える。
他人の立場に完全に身を置くことはできないので、これはなかなか難しいですが、でもそう考えることで、「語られていないが思っているかもしれないこと」が見えてくることがあります。たとえば「優秀な課員は若いうちに一度挫折を味わうべきだ」とか「自分が受けた苦難を後輩も受けるべきだ」とか。これは格好よくいえば、尊重と保留にほかならないと思います。
停止 ― 傾聴・尊重・保留 ― 選択
これを、わたしのお気に入りのSOSに紐付けてみると:
- 【Stop(止まる)】一拍置いて情動をやり過ごす。感情にまかせて反応しない
- 【Observe(観察する)】状況・自他の感情を観察し、隠れた意図や要求を考える
- 【Select(選択する)】目的を考慮し、最善の行動を選ぶ
動揺を切り抜けるための”SOS” – *ListFreak
最初のSはとにかくやり過ごすことなので、Oのなかで聞き、尊重し、保留するというイメージでしょうか。そして、行動を選ぶ。自分のファシリテーションがよくなるかどうか、試してみます。