何が対立するのか
組織が合意を形成する過程で、さまざまな葛藤や対立が起こり得ます。日本能率協会マネジメントセンター 『異質な力を引き出す 対立のススメ 身近な事例で学ぶコンフリクト・マネジメント入門』(2015年)では、『どんな深刻な対立も、他人から見れば取るに足らない対立も、次に挙げる三つの種類に整理すると対応方法を考えやすい』と述べられています。
- 【条件の対立】 立場や役割の違いによって起こる目標・条件の対立(交渉し、合意をめざす)
- 【認知の対立】 思考・価値観の違いによって起こる物事の解釈の対立(共有し、理解をめざす)
- 【感情の対立】 条件・認知の対立状態が続いたり、その経験がもとになって発生する心情面の対立(関心を寄せ、共感をめざす)
対立を生み出す三つの要素 – *ListFreak
本書ではまず対立を、よい「タスク・コンフリクト」と悪い「リレーションシップ・コンフリクト」とに分けています。いわゆる論理/感情の対立といえるでしょう。前者をさらに条件/認知の対立に分けて、先述の3要素が定義されていました。認知の違いという言葉がややわかりづらかったのですが、解説文の「価値観」や「解釈」、あるいは「信念」の対立だと理解すると、条件の対立との違いがはっきりしてくるように思われます。
わたしもかねてより対立のあり方を整理してみたかったので、ここで試みてみます。真・善・美を知・意・情に対応させてみました。
- 知の対立:真偽の対立、利害の対立
- 意の対立:善と悪・善と善・悪と悪との対立、価値観の対立
- 情の対立:美醜の対立、好き嫌いの対立
知の対立は、第一に互いの主張を支える根拠の真偽や、その根拠から主張を引き出す論理の真偽についての対立です。次に、根拠や論理が正しくても、たとえば商取引なら売り手は高い方が望ましいし、買い手は安い方が望ましいといった利害の対立があります。
意の対立は、利害というよりは善悪の対立です。ただし単純に善対悪とはなりません。ふつうの人は「自分は善き意図のもとに行動している」と考えているわけですから、善と善との対立なのです。
情の対立は、感情的な対立です。ある対象に対する美醜の感覚が相容れないとき、またお互いに忌避・嫌悪・憎悪の感情を持つとき、対立が生じます。
なぜ対立するのか
そういった対立がなぜ生じるか。根本的には、「対立」の字が示すとおり、互いに向き合うからでしょう。無関係な人との間には対立は生じません。もともと違う人同士が合意を形成しようとする意図があるからこそ対立が生じると考えると、対立そのものは善いものでも悪いものでもなく、原因と結果の法則にしたがって自動的に生じるものです。
であるならば、対立を無くそうとするよりは、素早く洗い出して効果的に解決・超克していく術を考える方が建設的ということになります。
どうやって対立を乗り越えるか
折りよく、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに『異論が出ないチームならば一緒に働く意味はない』という記事が訳出されていました。
一部の文化圏では、「チームワーク」という言葉のイメージは信じられないほど美しい。完全にシンクロしてボートを漕ぐ選手たち、あるいは、一糸乱れずに編隊を組む飛行機。 チームは「同じ船に乗って」いて、よきチームプレーヤーは「同じ方向に向かって船を漕ぐ」。ただ、そのように理想化されたチームワークとコラボレーションが、多くのチームを無力化している。
この記事では対立を受け入れやすくするために試すべき手法を3つ紹介しています。概要だけ引用します。
- チーム内の異なる役割を検討し、それぞれが何を話し合いにもたらすかを浮き彫りにする
- パーソナリティ評価ツールまたはスタイル評価ツールを使って、注意を払う対象が人によって異なるのを明らかにする
- 意見の衝突に関する基本ルールを設定する
一読して、以前編集工学研究所でお話をうかがったコミュニティエディターという電子会議システムに実装されていた「ロール」と「ツール」と「ルール」という三つ組を思い出しました。これを借りて、自分が使いやすいように上述の記事を再解釈してみます。
- 【ロール】 自分の利害関心に基づき、根拠を添えて明確に主張する。一方で他者の主張も理解するよう努める。
- 【ツール】 対立の構造や原因を探るために、共通のツールや仕組みを使う。
- 【ルール】 合意をめざすという姿勢を忘れない。合意にいたる方法を決めておく。
対立から意思決定を導くための「3つのル」 – *ListFreak