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コンセプトノート

680. 取り組んでみたい課題だと思ってもらうために

職場で誰かに仕事を依頼する。家庭で誰かに手伝いをお願いする。そういったシーンで、相手をどうやって動機づけたらよいか。わたしの仕事でいえば、たとえば丸1日のトレーニングセッションに参加してみようと思ってほしいですし、参加した後も、一つひとつの演習などに意欲を持って取り組んでほしいと願っています。

課題の価値から考える

人が目の前の課題に対して感じる価値について、わかりやすい要素のリストがあります。

  • 【内発的価値(intrinsic value)】 その課題に取り組むことが楽しいか
  • 【実用的価値(utility value)】 その課題に取り組むことが役に立つ・将来につながるか
  • 【達成価値(attaiment value)】 その課題に取り組むことが望ましい自己像の獲得につながるか
  • 【コスト(cost)】 その課題に取り組むコスト(投入エネルギーなどの努力コスト、他の課題を諦める機会コスト、失敗への不安などの心理コスト)はどれほどか

課題の価値を評価する4要素(課題価値モデル)*ListFreak

内発的価値は読んで字のごとくです。やって楽しそうと思えるなら、それだけで価値があります。実用的価値は、それをやることがスキルアップに、ひいては将来のキャリア形成に役立つといった価値です。達成価値は、たとえ役に立たなくても、自分のアイディンティティを維持・強化・構築するためにそれをやるべきだ・やりたいという価値です。

実用的なのは、第4項目にコストという、いわばネガティブな価値が入っていること。まずは課題に取り組むために費やす時間や労力・もしかしたらお金などの努力コストが発生します。次は、この課題に取り組まなければ得られていたであろう価値の符号が反転して、機会コストになります。さらに、失敗への不安やリスクを抱えるという心理コストも発生します。

こうしてみると、われわれが課題に取り組む際に感じる期待や不安がうまく網羅されていると思えます。われわれが課題を設定する際には、課題の価値を広く高く訴える一方で、コストを下げる努力をするべきでしょう。

この中で訴求が難しそうなのが、達成価値。達成価値を訴求するとは、言うなれば「この仕事は、たとえつまらなくても、たとえキャリアの役に立たなくても、自分にとって価値がある」と感じてもらうということです。自己像(アイデンティティ)というものの性質からして、これは外から押し付けるわけにはいきません。ただ、自分のストーリーを語るなどして、本人が課題を意味づける支援をするくらいは、ある程度できるでしょう。

お願いしたい課題を、楽しく・役に立ち・意味のあるもの、つまり価値あるものだと思ってもらえるように工夫する。同時に、それにともなう努力・他の選択肢との比較・不安、つまりコストを小さくするように工夫する。嘘はつけませんが、同じ課題でも工夫次第で相手の受け取り方は変わってくると思います。

課題に取り組む際の欲求から考える

同じ課題であっても、取り組み方によって、取り組みたいと思えるかどうかが変わってきます。課題への取り組み方を考えるときに参考にできるのが、このリスト(参考:「自発性の源」)。

  • 自律性への欲求(the need for autonomy) ― 自分自身の選択で行動していると感じたい
  • 有能さへの欲求(the need for competence) ― 環境と効果的にかかわり、有能感を感じたい
  • 関係性への欲求(the need for relatedness) ― 他者とつながりをもち、かかわりあっていきたい

自発性(内発的動機づけ)のみなもと*ListFreak

課題そのものはこちらから依頼するものであっても、そこに至る過程ではできるだけ相手にまかせる、相手ができるやり方で進めてもらう、他者との相互支援的な体制を整える。そんな観点で考えれば、工夫を施せる余地が見つかるかもしれません。

ここまで、他人に課題を依頼するという体で書いてきましたが、自分に課す課題でも原則は同じです。自分で自分に依頼すると考えてみると、少し面白くなるかもしれません。