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コンセプトノート

307. 再定義(あるいは名前付けゲーム)の力

「再定義」の力

目的の再定義が「創造的な選択」の核心です。

堀内 浩二 『クリエイティブ・チョイス』(日本実業出版社、2009年)

なぜこの仕事が与えられたのか。本当にこれが自分のするべき仕事なのか。何をどこまでやれば達成と言えるのか。自分の仕事をそのように「再定義」することから、マネジャーの仕事は始まるということです。

そこで、最後にもう一度リストを見渡して、最終調整をかけようというのがこの【再定義】のステップです。

堀内 浩二 『リストのチカラ』(ゴマブックス、2008年)

「再定義」は、わたしのお気に入りの言葉です。「再定義」という言葉には、自分が暗黙のうちに抱いている前提を掘り起こし、問い直し、考えさせる力があると思っています。
ピーター・ドラッカーは、企業の利益を「事業継続のためのコストである」と再定義し、われわれの視点を転換しました。アルビン・トフラーが『富の未来』という800ページを超える大著で訴えていたのは、要するに(未来における)富の再定義です。

ただ「再定義」といっても、なかなか難しいもの。そんなときに試して欲しいのが「名前付けゲーム」です。

たとえば、家族における自分の役割(たとえば父)を言い換えるとしたら、何か。
財布(家計を支えているから)?
道化役(みんなを笑わせるから)?
政府(規制と予算を担っているから)?
壁(善悪の基準を教える、でもいつかは乗り越えられる存在だから)?

世の中の他のモノに置き換えても、すべてを表すことはできないでしょう。造語が浮かぶかもしれません。
とにかく、当たり前のように使っている言葉を、新しい名前に呼び換えてみます。
その作業を通じて、自分がその言葉に込めていた価値観が明らかになる場合もありますし、その言葉が表すものを深く考えるきっかけにもなります。

後者について、最近わかりやすい例に遭遇しました。

歩くことを「体重移動のアート」と名付けてみると

もう一年近く前のこと、歩きながら、ふと「歩くって、『体重移動のアート』だよな」と思いつきました。そう言ってしまうと、走るのも飛ぶのも体重移動のアートなのですが、たまたま歩いているときにその言葉を思いついてしまったのです。

一度「歩く=体重移動のアート」と再定義してみると、自分の歩きが気になります。体重移動のアートであるからには、倒れようとする下向きのベクトルが無駄なく前向きのベクトルに変換されなければならないはずだ。左右には揺れない方がいいんだろうけど、体のねじれは推進力になるはずだよな……などなど、すっかり即席ウォーキング研究者になって、夢中で歩いてしまいました。

とにかく、歩くことが「体重移動のアート」になるように我流で研究した結果、すこし体を前に倒す(でも腰は曲げない)ことで、スタスタ歩きやすく、でも疲れにくくなることが分かりました。その後書籍を読んでみると、たしかに、わたしのように反り身の傾向がある人は、かかと側に体重を残してしまうので腰が疲れやすいようです。

歩くという言葉をちょっと言い換えてみただけで、いろいろな発見につながった。こんな小さなことも、わたしには「再定義」の力を感じる機会でした。