『ポジティブ心理学―21世紀の心理学の可能性』という本で「健康生成論」という考え方を知りました。
「健康である」というと、なんとなく「病気でない」と同義語のように思ってしまいますが、それだけではなく、人をより健康にする要素があり、健康は積極的に維持・増進され得るという発想に基づいています。
この領域を打ち立てたのはイスラエルのアーロン・アントノフスキーという社会学者だそうです。なかでも「SOC(Sense of Coherence)」という概念が面白かったので紹介します。coherenceというのは首尾一貫という意味。
SOC(Sense of Coherence)は1970年代にアントノフスキーが、大きなトラウマ(ナチ強制収容者からの生還)体験を持ちながらもなお、健康に生きている人たちの存在に驚き、その人々の健康はなぜ保たれているのかに注目し研究する中で見出した健康生成要因である。
要するに「健康の素」みたいなものを定義しているわけです。面白そうですよね。それは次の3要素からなっています。
- 有意味感(meaningfulness) ― 情動的、動機的側面を表し、自分の人生が意味あるものと感じる程度であり、それは、少なくとも、人生における課題、問題はチャレンジであり、エネルギーを投入するのに値するものと見なす程度である。
- 把握可能感(comprehnesibility) ― 認知的側面を強調した要素であり、自分が直面している問題は自分にとっては秩序だった一貫したもので了解可能であると信じられる程度である。
- 処理可能感(manageability) ― 行動的、手段的側面(Instrumental aspect)を強調した要素であり、自分が直面している問題にうまく対処するために、自分の資源を動員することができると信じられる程度である。
「健康さ」の源にある首尾一貫感覚 – *ListFreak
人生は、意味があって、全体がつかめて、なんとかできるもの。そう思える人は「健康の素」を手に入れています。論文にあたったわけでもないのでこれらの要素がどのように導かれたかは分かりませんが、知情意+行動のバランスが取れていて、網羅感はあります。
このリストを眺めていて、「ハーディネス(心の頑健さ)」というノートを思い出しました。ハーディネスもはやり高いストレス耐性を示した人の特徴を抽出したものです。次に再掲しておきます。
- コントロール(制御)力が強い 自分の行動が、ものごとの推移や結果によい影響を及ぼすと信じている。無力感に陥ったり、犠牲者のような気分になったり、受け身の態度をとったりすることは時間の無駄だと感じている。
- コミットメント(関わり合い)力が旺盛 自分の仕事に興味や重要性、価値などを見出すことができる。周囲のできごとへの関心が高く、周りの人の状況と関わることを刺激的で有意義だと感じている。否定的な態度をとったり、無力感や空虚感、退屈な思いなどにとらわれたりすることはまずない。
- チャレンジ(挑戦)力が旺盛 人間はよい経験と悪い経験の両方から学ぶことで成長し、満足感を得ると信じている。何の努力もせずに快適さや安全が手に入ると考えたり、そう望んだりすることは現実的ではなく、むしろおろかだと感じている。
ハーディネス(心の頑健さ)の3C – *ListFreak
2つを比べてみると、どことなく似ていますね。有意味感=コミットメント、把握可能感+処理可能感=コントロールと重ねられそうです。となると「チャレンジ」が、ただ「健康」なだけでなく「頑健」であるための条件ということになるでしょうか。