対人関係を理解する5つの枠組み
『ヤバい経済学』(Freakonomics)の著者スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナー の新著『0ベース思考』(”Think Like a Freak”、ダイヤモンド社、2015年)の中に、対人関係は5つの枠組みのどれかに収まるという記述がありました。
- 【金銭的枠組み】 モノの売り買いや交換 (financial)
- 【敵対的枠組み】 戦争やスポーツ、(残念ながら)ほとんどの政治活動 (“us-versus-them”)
- 【友好的枠組み】 友人や家族(うまくいっていない場合は「敵対」も) (“loved-one”)
- 【協調的枠組み】 仲間内やアマチュアオーケストラやサッカーチームなど (collaborative)
- 【権威主義的枠組み】 親と子、教師と生徒、警官と市民、軍の指揮官と兵卒、上司と部下など (“authority-figure”)
対人関係を理解する5つの枠組み – *ListFreak
多くの対人関係は、複数の枠組みが混在しています。たとえば塾講師と生徒を考えてみましょう。教師と生徒ですから両者は権威主義的枠組みの下にありますが、一方で(生徒の合格は塾にとっても実績というメリットになるので)共通のゴールをめざした協調的枠組みもあてはまります。さらにこの関係は、生徒の親が塾に費用を払って成立させたわけですから、金銭的枠組みの影響を免れないでしょう。
どこかの社会学者が提唱している枠組みかと思い原著をあたってみましたが、引用もなく用語もカジュアル(リスト項目の最後に付けておきました)なので、著者のオリジナルのようです。
枠組みが変わるとインセンティブも変わる
レヴィットらの思考のベースにあるのは「人を動かすインセンティブに注目せよ」です。対人関係を規定する枠組みが変われば対人行動のインセンティブも変わるため、問題解決の突破口になるといいます。
本書では、金銭的枠組みで行動する小売企業と顧客との関係を、思い切って友好的枠組みにシフトさせたザッポス(並外れた顧客サービスで有名なアメリカのネットショップ。Amazonに買収された)の例などが挙げられています。金銭取引と友情はなじみにくい概念ですが、もしうまく融合できれば、「安いから」あそこで買おうという動機だけではなく「彼らがいるから」あそこで買おうという動機が顧客に生まれます。
対人関係の成分を変えてみる
このリストを眺めていて、最近偶然にも対人関係の枠組み転換があったことを思い出しました。
上司との関係に問題を抱える社会人1年目のAさんと対面セッションをしていました。たとえば新規顧客開拓の方法について相談しても、根性と気合いとかいった言葉が返ってくるばかりだというのです。たしかに困った状況ですが、仕事は根性という人が全員精神論の信奉者ともかぎりません。そこですこし詳しく聞いてみました。
私「どうなんでしょう、上司は本気でそう思っているのか、意地悪で言っているのか、それとも『わからない』という意味で言っているのか……」
Aさん「わからないんじゃないかと思います」
「でも上司ご自身は営業成績を上げておられる?」
「はい」
「とすると、上司は自分なりのやり方をつかんでいるけど説明できない?」
「そういうことだと思います」
「上司も困っているのかもしれませんね」
「はい、上司を困らせていると思います」
いちばん困っているのはご本人でしょうが、上司の心情にも思いを向けられるあたり、AさんのEQの高さが窺われます。ふりかえると、この「上司も困っている」という言葉が転換点でした。
私「上司が自分のコツを言語化する手伝いができるといいですね」
A「……そういえば」
「そういえば?」
「社内で営業の成功事例を集めるプロジェクトを立ち上げる、というメールが回ってきてました」
Aさんは社内プロジェクトにリクエストを出してみようと決断し、計画を練りはじめました。Aさんの上司がうまくプロジェクトに巻き込まれていけば、Aさんご自身の問題はもとより、上司の問題も解決できるかもしれません。
新人のAさんにとって上司との関係は圧倒的に権威主義的枠組みの下にありました。でも「上司も困っている」と気づいたとき、協調的枠組みの成分が入り込んできたのだと思います。仕事仲間として上司を助けられないかと考えたとき、Aさんの頭に社内プロジェクトの活用というアイディアが浮かんできました。