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コンセプトノート

269. 一生懸命、何もしない

変わった研修に参加しました。参加者はグループに分かれてプロジェクトに取り組むよう指示されるだけです。講師はいるのですが、講義もしなければ質問にも答えません。グループが混乱しても停滞しても、そのまま放置します。
 しかし、教えるはずの人間が何も教えないことにより、参加者にはさまざまな気づきが生まれます。驚くような発見があります。

 この研修には講師側で参加していました。タイトルの「一生懸命、何もしない」は、先輩講師が教えてくれた言葉です。カウンセラーの心得とのこと。この逆説的な表現にはハッとさせられるものがありました。

 よく「虚心に聴く」といいます。応援したり話し手の考えを分かろうとしたりせずに、ただ聴く。こう書くのは簡単ですが、これはとても難しいことです。
 訓練を積んだカウンセラーは別かもしれませんが、人は話を聴いた瞬間にそれを理解しようと思ってしまうものではないでしょうか。他人の話を理解することは、自分の世界観(パラダイム)というフィルターを通して解釈することです。そうであれば、話し手が本当に感じていることは厳密な意味では共有できません。

 しかし、話を聴きながら無意識に解釈してしまうのは止められないとしても、そのうえで何もしないように努力することはできます。アドバイスしたくなる気持ちをこらえ、決めつけたくなる気持ちを抑え、一生懸命、何もしない。そうすることで、相手の発見を促し、学びを阻害しないするように努めることはできます。

 「一生懸命、何もしない」。学びを促すために、よく聴くために、思い出したい言葉です。