答えは質問の不幸である
マネジャーの方々とリーダーシップについて考える一日を過ごすと、最後のQ&Aタイムでさまざまな悩みが寄せられます。最近よいやり方を教えてもらい、ますますQが増えました。
「部下に言っても聞いてくれない。どうすれば?」
「ていねいに考えさせるには時間がない。どうすれば?」
往々にして終了時刻間際なので、参加者からアイディアを募ったり、 使えそうなフレームワークを紹介したり、「manageとは『何とかやりくりする』という意味。矛盾の超克がマネジャーの仕事」と原則論をぶってみたり、駆け足でコメントをして終わりがちです。
でも、答えらしきものが与えられればられるほど、質問者の心には「そうは言ってもなあ……」「まあ、それしかないのかなあ……」と、くすぶる思いが残るようにも感じます。
一方で「なるほど、スッキリしました!」と言われると、逆に「いや、そんなに簡単に解消できるお悩みではないですよね」と議論を続けたくなってしまいます。
どうやって幕を下ろすのがよいのか、考えながら手に取った本に、目を引かれる引用がありました。
「答えは質問の不幸である」(モーリス・ブランショ)
「答えは好奇心を殺す」(ウィルフレッド・R・ビオン)
そう、育てていくべき問いの芽を、拙速な答えで摘んでしまったように感じているのだと思います。
ネガティブ・ケイパビリティ
その本は、帚木 蓬生 『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(朝日新聞出版、2017年)。ネガティブ・ケイパビリティは詩人ジョン・キーツの造語で、『不確実なものや未解決のものを受容する能力』 (Wikipedia日本語版)のこと。
「不確実なものや未解決のものを受容する」、言い換えれば「あいまいさに耐える」力は、知恵 (wisdom) を発揮するための不可欠な要素です(「知恵のバランス理論」)。それを表現する言葉があることを、初めて知りました。
※ 今回の主題とは離れますが、この造語に至った発想に興味を持ちました。ケイパビリティ(capability、能力)の反対語はインケイパビリティ (incapability) 、つまり無能です。当然のようですが、これではプラスの反対はゼロといっているようなもので、マイナスが見過ごされています。「ネガティブ・ケイパビリティ」は、見過ごされていたマイナス領域に光を当てたという点で、ナシーム・ニコラス・タレブの「反脆弱性」に似ています。
問いを抱え続ける能力
あいまいさに耐えることの重要性や方法は10年越しで考えていることで、冒頭のようなQ&Aでダイレクトに言ってみることもあります。しかし、相手がはぐらかされたように感じたのではないかと思ってしまい、なかなか(自分が)すっきりしません。
考えてみると、「Q&Aタイム」の捉え方に思い込みがあったように思います。もちろん、事実の確認や知識の補充という意味での「質問と回答の時間」でもありますが、マネジメントに携わる方々にとっては、「これから向き合っていくことになる問いを洗い出す時間」という意味合いが濃いように思います。
白か黒かの二分法に安住しない力が、知恵を発揮するために欠かせないこと。その力にはネガティブ・ケイパビリティという名前も付いていること。その問いは、ネガティブ・ケイパビリティを発揮してこれから抱え続けるべき問いであること。そんなことを自分の言葉で明確に伝える勇気が足りなかったようです。